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第七話 信頼と団結


間宮「まず最初に盛沢社長にお伺いします。今回、護澤鉄鋼様の不手際によって発生した損害は月間で12万と386円。損害自体も少なく済んだため賠償では無く有効的な関係を結びたいとのお考えでよろしいでしょうか?」


間宮の言葉一つ一つに反応するように、天秤は薄く点滅を繰り返す。


盛沢「はい、間違いありません」


盛沢社長の言葉を聞き終えると、天秤はガタンッと音を立て少しづつ盛沢社長の方に傾き始める。


間宮「次に澤社長、本件は御社に責任があり償いをする気はある。しかし、自社の将来を考えると、経営協力よりも損害賠償として速やかに解決したい。間違いありませんか?」


澤「あ、ああ。その通りです」


澤社長の言葉を受けた途端、天秤は強く輝き出し、そして盛沢社長の方へとまた大きく傾き出した。


間宮「これが答えです」


傾ききって倒れんばかりとなった天秤を一目みて、間宮は深く息を吸い、続けて話を始めた。


間宮「澤社長も既に理解していると思われますが、御社の経営状況はとても苦しい所にあります」


澤「ば、馬鹿な事を! ウチは上場企業だそ!」


間宮の一言に対して澤社長は立ち上がり、まくしたてるように怒鳴りつけた。


間宮「上場企業……そうですね。それは間違いないでしょう。ですが」


盛沢「爽守スチールさんですね」


間宮の言葉を遮るようにして盛沢社長も立ち上がった。


間宮「……はい、護澤鉄鋼は確かに上場企業ですが、近年急激に成長を続けている爽守スチールにシェアを奪われかけている。これが現実です」


視線を澤社長に移し、淡々と告げる。そして澤社長もそれを受けて椅子に座り、手を組みながら答える。


澤「そのための自動車部品部門への新規参入だ。これが成功すれば爽守スチールなぞ……」


[爽守スチールなぞ目ではない]そう言いかけて澤社長は口を止めた。


間宮「ええ、そうです。御察しの通り、現在の御社にはそれは不可能です。が……」


護澤鉄鋼は確かに技術力もセールス力も持っていた。しかし、自動車部品を取り扱う上で大切なものを幾つか持ち合わせていなかったのだ。


盛沢「お貸ししましょう。指導者も、技術者も、ラインも」


これまで自動車とは無縁の護澤鉄鋼には知識も技術も、生産ラインの確保も難しい物だった。盛沢社長はそれに気付いていたのだった。


盛沢「ウチは自動車部品も取り扱う事がある。必ず力になれるはずです」


澤「盛沢社長……しかし、それで一体御社になんの利益が……」


貸し出した分の収益は確かに入るが、人材も技術力も流出する事になり、さらには本社の生産量も減らさざるを得なくなる。盛沢鋳造には一切利益など残らなかったが。


盛沢「ウチの利益なんて無くて良い。御宅が成長できればそれが何よりの利益になる。そうやって私達は大きくなってきたんだ」


そう言うと盛沢社長は振り返り、足早に部屋を後にした。


間宮「……以上で盛沢鋳造様、護澤鉄鋼様二社間の損害賠償及び経営取引会議を終了と致します」


そして間宮は一礼するとボールペンのキャップを開け、天秤はまた黒いインクとなってその中へと戻って行った。


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