第二十四話 縁
何度ぬかるみと木の根にタイヤをとられかけただろうか。
舗装など一切されていない獣道を一台のワゴン車が進み早二十分。遂に開けた丘に辿り着いた。
「もう少し真っ直ぐ進めば小屋があるわ。そこで話をしましょう」
ピッと前方を指さすと朝倉もそれに従い少し速度を上げて車を走らせる。
宣言通り少しも経たぬうちに遠くに物影が見え始めた。段々と近づくにつれてそれが家屋の形をしていることも分かり、それから全員がその中へ入って行くまでにはそう掛からなかった。
「さて、まずどこから説明しましょうか。手っ取り早く私の正体を明かす方が良いかしら?」
既に座布団が囲うように五枚敷かれた木のちゃぶ台にコースターと小さなグラス、そして大きな炭酸飲料のペットボトルを並べながら尋ねるような口調で話し始める。
「私の名前は稲村明美。と言ってもこれは本名では無いの」
誰とも言わず、返事も待たずに口を開いた。プシュッとペットボトルの蓋を開けて手元のグラスに黒い炭酸水を注ぎ込むとまた喋り始める。
「私の名前は九条明美。貴女達の知る九条とは親族にあたるわね」
四人の驚いた表情も意に介さず、ゴクゴクとグラスの中身を飲み干すと締めずにいたペットボトルからまたグラスに注ぎ込む。
「てことはあんたは九条部長の妹……?」
「もしくは従兄弟、という事?」
一斉に口を開いたのは柿谷と真希だった。
口に運びかけたグラスを止め、コースターの上に戻すと首を横に振りまた口を開く。
「いいえ。九条部長、本名を九条瑛太。彼は私の大叔父にあたるわ」
また部屋の中に炭酸水を飲み干し注ぎ直す音だけが残る。
沈黙の中で口を開きかけては閉じる、言葉を紡ごうとして解れてうまく口を衝かない真希と柿谷を見兼ねてか、また稲村はすぐに言葉を続けた。
「貴女には心当たりがあるんじゃないかしら? 九条という苗字と、大叔父と言う関係は、私と貴女と間宮さんとの接点としては大きいものだと思うけれど」
目を瞑ってただ頷く間宮を横目に確認して、朝倉は長い溜め息を吐く。
左手で拳を作り、それを額へと軽く押し当てて答えを呟いた。
「あんたは先生の、九条栄介の孫になるわけだな」
「ええ、そう。貴女達が師と仰いだ男。魔法商女の力を確立させた男と、ゼロ人目の魔法商女の孫。それが私よ」