第二十三話 脇道
「ありがとう、だいぶ落ち着いたわ」
それから座り付く訳にもいかず、場所を駐車場へ移し十分余りして、稲村は立って話せるまでに快復した。
そして一度は納めた敵意の矛を三人の魔法商女は再び構え直す。
「ひとつ念押ししておくわ。私に矛先をあまり向けないで貰いたい」
先程まで弱り切っていた姿とは別人のようにしゃんとして、稲村は虚勢でもない以前まみえた時とも違う友好的な表情をして見せた。
「まずは間宮さんの魔法……魔女魔法について説明しなければならないわ。一度場所を変えたいのだけれど…………」
口を噤んで苦悶の表情で朝倉に訴えかけるような視線を送る。それを受け取ってか朝倉も苦い顔をすると間宮に向けて手を差し出した。
「鍵よこしな。で、どこに向かえばいい」
「助かるわ。道案内するからその通りにお願い」
一度は目で拒んだ間宮だったがその目に映った朝倉の脅迫のような鋭い威圧感に圧され、渋々と鍵を手渡す。
手の上にある電子キーに一瞬戸惑いながら、ドアハンドルのボタンを押して乗り込んだ。
「それじゃあ上木山のふもとまでお願い。そこからは案内するわ」
軽く頷き助手席に乗り込んだ稲村の指示に従う意思表示を見せて発進させる。
「感心しないわね。朝倉さん」
駐車場から出て少しした頃、地図を広げていた稲村は食ってかかるような口調で告げた。
「ハンドルは十時十分よ。片手で運転なんて危険な行為は避けるべきだわ」
「危険って別にこの位は……」
大した問題じゃない、と言いかけて視界の端に映る震えて青ざめた顔に、朝倉は自然と両手でハンドルを握る。
「余程怖い思いをしたんだな……」
「汲み取って頂けたようでなによりだわ」
そんなボソボソとした二人の会話から三十分も経たないうちに、五人を乗せた車は道の脇に停止した。
案内を求める朝倉の言葉を聞く前に稲村は地図を畳み車から降りて歩いて行く。
そして辺りの様子をくまなく伺うと山道の入り口脇にある立ち入り禁止のバーとコーンを手早く退けて急いで車に乗り込んだ。
「あそこを越えたらすぐに停めて。元に戻したらまたすぐに真っ直ぐ進んで欲しい」
シートベルトも締めず急かす稲村に圧倒されて朝倉は言う通りに車を出した。
そしてしばらく山道を進むと、五人の前には開けた丘が広がった。