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第二十二話 使者

 男達の足取りは重かった。だと言うのに、表情は明るく前を向いている。

 当初五人だったはずの部屋に何人も増えたり減ったりした事の説明も無く、最後に入ってきた女の素性も明かさず、訳の分からぬまま会議は終わりだと言われた飲み込めない感情と、それでも前を向いて歩いていれば良いと押された烙印が二人の代表を複雑な心持ちにしながらも、結束を強め前を向くに至った。

 後に株式会社朝出運輸とREtech有限会社は結託して幾度の障害を乗り越え、互い大きくシェアを獲得する事となる。


「それでは説明を、とその前に移動しましょうか。表に車が停めてあります」

 荷物を片付け終えた三人を先導するように間宮は部屋を出た。それに引かれるように朝倉も、そして真希と柿谷も芋づるに部屋を出る。

 部屋を出てすぐの廊下に差し込む玄関から伸びる夕陽の奥に、真希は喫煙所のベンチに座り込む人影を見つけた。それからオレンジに染まる自動ドアの向こう側から生える影の正体に全員が気付くのに時間はかからなかった。

「久しぶりね、朝倉京子さん」

「稲村……どう言うつもりだ」

 自然と早足になった朝倉に真希と柿谷もつられて玄関から飛び出した。

 長いベンチに浅く腰掛け、ふてぶてしく背もたれにもたれながら、稲村明美は白いポリ袋を左手にぶら下げ、青白くなった顔で鋭い眼光を向ける。

「貴女には謝らなければいけないわね。素敵な再会にすると言ったのにこんな事になってしまって……」

 そう言いながらゆっくりと立ち上がると、見上げるように朝倉と視線を合わせそれから軽く会釈をした。

「それから図々しい事とは思うのだけど、お願いをしても良いかしら」

 ズイと一歩踏みよると倒れこむようにしてその右手を朝倉の肩へとかけてこうべを垂れる。

「背中を……さすっては貰えないかしら…………」

「背中を……か。…………背中?」

 すっとんきょうな嘆願に困惑しながらも顔を青くした目の前の弱々しい存在にいたたまれなくなり、右手を優しく背中へあてた。

「本当はもう少し格好の付く形でこの日を迎えたかったのだけれど、誤算だったのは間宮さんの人柄を履き違えていた事ね……」

 ずるずると足元にしゃがみ込む稲村を他所にすぐ後ろを振り返る。

 同じく困惑し呆けた顔をしている二人のすぐ後ろで、渾身のしたり顔を浮かべる間宮と目が合い、朝倉は目の前の事情は把握する事が出来た。


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