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第十四話 覚醒

 それは確かに口元から溢れ出した筈の、真っ黒で苦々しい言葉だった。

 禍々しさに身構えて、桜田に集中していた意識を部屋全体へと向ける。

 そうして数秒経った時、二人は異変に気付く。正しく言うのならば大きな異変が起こっていないという異常に気が付いたのだった。

「安心してください。もう魔法は発動されています」

 魔女の言葉からも先程まで感じた毒気は失われていた。部屋の何処からもあの黒々とした気配を感じず、桜田にもその様子は見られない。

 それから少しして、柿谷は一つの解答に辿り着く。

「……【絶対珠算】発動!」

 柿谷の左手に握られていたそろばんは自ら形を崩し、珠を肥大化させ光の枠組みの中へと収めた大きなそろばんへと生まれ変わった。巨大な従者は明滅しながら宙を漂い、柿谷の命令を待つ。

 柿谷も真希も確認したい事があった。三転する十露盤と確かに魔女は言った。『貴女も』そろばんを使うと、そろばんに関係する魔法に既視感があるかの様な口ぶりをしてもみせた。

 魔法は既に発動されていると言っても、事実そろばんの姿が見えなかった以上計算を狂わせる魔法か、計算をさせない為の魔法かのどちらかであると二人は考えた。

 そうであったならば最早普通の電卓には価値が無く、絶対珠算を発動しておかなければそもそもとして商談など進められないと。そして絶対珠算そのものが機能しない可能性も頭の片隅に意識した。

 柿谷の命令を認識してカタンカタンと小気味良く音を立てながら絶対珠算は演算を開始する。しかし物の数十秒で音は止み、柿谷の表情を暗くした。

 緊張の糸が切れ、止めていた息をふっと吐き出して柿谷は絶対珠算を小さいそろばんへと戻す。現時点で二人に出来る事は無くなったと言っても過言では無かった。

 唖然とする両社の代表を他所に柿谷は項垂れてパイプ椅子へ腰掛ける。敵を睨み付ける余裕も無く、漠然と解決策を考えていた。

 無論それで許される物では無い。これは、この場は二社の発展を賭けた会議の場であり、その相談役として呼ばれた魔法商女に悲観している時間など許される筈も無かった。

「……柿谷さん。もう一度、絶対珠算を出して貰えない?」

 無音で気不味い空気の詰まった会議室で初めて真希は口を開いた。

 柿谷に打開策は無く、真希の言う通り魔法を発動し演算を開始させる。が、やはり数十秒でそれは終了し、二人が思い描いていた結果とは違った計算結果を表した。

「……そのまま少し待っていて」

 そう言うと真希はボールペンをペンケースから取り出し目を瞑って意識を集中させ始めた。ぼうっとしていた柿谷もハッとして、期待か希望を抱いた視線で真希を見つめる。

 ぎゅっと瞑った瞼を開けて、真希はボールペンの先をそろばんへと向けた。

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