第二話 予感
一月四日。九条経営コンサルタントも、年末休暇を終え仕事始めとなる。
間宮智恵の離反から三ヶ月と十日経ち、その間に伽耶岬支部も大きく変化した。
一つは間宮智恵が正式に解雇処分となり、オフィスから消えたこと。
もう一つは、稲村明美の受け入れ期間満了によって、稲村もいなくなったこと。
伽耶岬支部に残ったのは結局真希と柿谷、そして部長である九条のみとなった。
これは間宮の離反直後、九月終わりのこと。
それから少し経ち、十月に差し掛かった頃、真希と柿谷のコンビが解消された。
その頃には間宮の犯した罪によってか悪評が立ち上り、依頼自体が少なくなっていたため、二人でかかる必要も無かったのだ。
そして十二月。オフィスに三人が揃うことが無くなった。
信用回復の為にと用意した仕事に追われ、二人の魔法商女はすれ違うようになっていた。
そのまま年末休暇に入り、年が明け、三が日が過ぎて一月四日。
仕事始めにも関わらず、二人は入れ違うように仕事に出かけた。
しかし、そんなすれ違いにも終止符が打たれる時が来た。
一月四日、午後五時二十分。真希と柿谷の元に九条からの電話が届いて、二人が。厳密には三人が引き合わされた時、魔法商女の因果はまた動き出す。
オフィスに沈黙が流れる。部屋の中は紅茶の香りとわずかなハムノイズに満たされ、他の情報は少し遠いところから入り込んでくる水の音のみとなった。
うつむく魔法商女達にこの沈黙を破るつもりが無いと悟った九条は、無言で立ち上がり食器棚の奥から小さなお菓子の缶を引っ張り出して来た。
「すっかり静かになってしまいましたね。このオフィスも」
ぽつりとつぶやくと、九条は缶の蓋を開け、中から写真の束を取り出した。
「これは真希さんがここに初めて来た時の写真。こっちは柿谷さんと稲村さんが来た時の。二人が魔法の特訓をしているところ、事務処理をしているところ、居眠りをしているところ」
思い出に浸るように、頬杖をついて一枚一枚を並べていく。
「ここからは……。真希さんが来る前、伽耶岬支部を立ち上げてから、間宮さんと二人で仕事をしていた頃」
ふっと息を吐き、九条は束を整え並べられた写真の横に固めて置いた。
「部長。あたし達がここに呼ばれた理由、まだ聞いてません」
うつむいたまま、先に言葉を発したのは柿谷みさだった。
「思い出話のために集められたのなら失礼します。まだ回らないといけない所があるので」
柿谷が椅子を引いて立ち上がり、そのまま立ち去ろうとした時、いつの間にか止んでいた水の音の代わりにガタンという音が響いた。
そしてそれはだんだんと近づいてくる足音へと変わり、足音は部屋の奥の扉を開ける音へと変移する。
扉から現れたのは、髪を濡らした朝倉だった。