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第四十話 【終の音】


柿谷が城ヶ済を連れて戻って来た時は、二つの音が早いテンポで迫って来ていた。

朝倉が間宮を止めに来た時は、その時よりも強く、けれどそれよりもゆっくりとした音だった。

今度はヒールの高い音では無く、もっと低くて、もっとゆっくりとした足音が近づいて来た。

ドアをあけて、中に入って来たのは九条部長だった。

「お疲れ様でした。真希さん、みささん、稲村さん。そして、朝倉京子さん」

労いの言葉を投げかけ、九条部長はつかつかと間宮へと歩み寄る。

「間宮さん。貴女はきっと、自分のしていることも理解して、その罪も理解して、その上で私の言いたいことなんてもう理解しているのでしょう」

そして、泣き腫らした目をこする間宮に語りかけるようにして告げた。

「私は、九条経営取引コンサルタント伽耶岬支部、営業部長として。間宮さん、貴女を懲戒免職とします」

感傷的になるでも無く、淡々と、責務を全うすべく九条部長はクビを言い渡した。

「はい……。長い間、お世話になりました……」

間宮もそれに驚くことは無かった。

魔法商女としてではなく、一人の取引仲介人としての大きすぎる罪を自覚していたからだ。

「円さん、柿谷さん」

朝倉に支えられていた体を起こし、その場に座り直す。

そして二人の後輩を呼び付けると、朝倉の手をとりながらはにかんだ。

「京子さん、口は悪いけどそれも心配してくれてるって事だから。きっと二人のことも助けてくれるはずよ」

一瞬ムッとした朝倉だったが、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべて間宮の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。

「だーれが助けてやるか。あたしは保育士じゃねーんだぞ」

肩を組み顔を近づけて馬鹿にするような口調で拒否の言葉を並べた。

「もう、素直じゃ無いんだから。じゃあ京子さん。二人の事をよろしくお願いしますね」

朝倉の言葉にくすりと笑いながら、肩にまわされた手をぎゅっと掴んで頭を下げた。

「……ばーか。そんなお願い聞いてやるかよ」

掴まれた手を乱雑に振りほどくと、また頭を撫で回し最後に背中を強く叩いた。

「あたしはあたしで好きにやるさ。じゃあなひよっこ共」

小馬鹿にしたように笑いかけると、背中を向け、右手を振りながら部屋を出て行った。

「さあ、二人とも。早く帰って仕事しなさい。九条部長、二人をよろしくお願いします」

分かりました。と、九条部長は二人を手招いて部屋を後にした。

残されたのは間宮智恵と、稲村明美の二人だった。

「貴女の言う通りだったわね。いえ、もしかしたら貴女の見たてよりも私は…………」

言葉を詰まらせ、どこに居るのか分からない相手に萎縮するように肩を落とす。

「……貴女の言う、『私の見たて』って何かしら?」

そんな間宮を見下ろすように、強い口調で稲村は続けた。

「貴女はまだ、魔法商女として生きてしまっている。言ったはずよ。私は貴女に、間宮智恵に魔法商女を辞めてもらう、と」

稲村は座っていたパイプ椅子をたたみ、掴み上げると、大きく振りかぶりそのまま叩きつけた。


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