第三十三話 終焉
『これが、罰なのだろうか。』
『いや、これは罰では無い。』
『罰は罪に与えられる物だ。』
『私が何をした。』
『私の居場所を返せ。』
『ああ、円さん。柿谷さん。』
『貴女達の隣は私の――』
「っ⁈ 間宮さん‼︎」
声を上げるよりも先に真希は動いていた。
眼孔から黒炎を上げのたうち回る間宮に駆け寄り、それから自分の無知さ、無力さを痛感した。
今目の前で起こっている事は、一体何だ。
「あんたらは一度似た経験をした事がある筈だ。それは魔法のバックファイアさ」
声のする方へ顔を上げると、ツカツカと歩み寄ってくる朝倉の姿があった。
「バックファイア……?」
「そう、魔法って言う炉が壊れて吸気口で爆発してんのさ。もっとも、こいつの場合はあんたらとは事情が違うんだけどな」
近くにあったパイプ椅子を乱暴に引き、どかっと座るとテーブルの上にあった電卓を拾い上げた。
「あんたらに起こったバックファイアは、あのそろばんが正しい命令を形の残った媒介に要求した物だ。ま、電卓に命令は下せないから二進も三進も行かなくなってホストに負荷が掛かった訳だ」
そう言うとすぐ後ろまで来ていた柿谷の方を仰向けになる様にして見て、小馬鹿にした様な笑みを浮かべた。
そしてすぐにあの穏やかで冷ややかな視線で間宮の方を向き直して続けた。
「魔法には二つの媒介が必要だ。そろばんと電卓。左右のピアス。そしてボールペンのインクと……」
電卓を指差し、次は自身の耳を指差し、言葉を切って数秒後。朝倉は自分の目を指差した。
「間宮はとんでもない不正を働いてた。その分、正しい情報を無理矢理流し込まれた時に合致しない点がエラーとして大量に媒介へと流れ込んだんだよ。天秤を形どったインクと、全てを公正に見ると誓った筈のそいつの目ん玉に」
そう言い放った朝倉の表情は、侮蔑する事も無く只々悲しみを浮かべていた。
やがて間宮を襲う黒炎は収まり、朝倉の取り仕切りの元会議は中止、改めて彼女の仲介をもって開催される事となった。
真希と柿谷はこの事を九条に報告すべく帰路に着くことにした。
間宮の処遇については九条と相談の後に決定する。朝倉は少しの間だけ間宮と話をさせて欲しいと会議室に残る事となった。
過去については真希は何も知りはしない。浅からぬ事情も有るのだろう。そう思い、間宮と朝倉を残して会議室を後にした。
何度も何度も通った廊下。走って通ったのは今日が初めてだったが、それを最後に見納めだと思うと感慨深い物があった。
妙に長く感じる廊下を一歩一歩踏みしめ、かつての上司達がいるエレベーターでは無く、今の後輩と駆け上がって来た階段へと辿り着いた時だった。
真希の心の中に何か得体の知れない恐怖が流れ込むと同時に、金属を打ち付け合う様な音が響いた。