第二十五話 「 」
伽耶岬市にある中で最も大きな建物。伽耶岬シーサイドホテル。
観光客を受け入れる為に増改築を繰り返し続ける、波の音が聴こえる程海に近いホテルである。
まだ日が上りきる少し前、薄暗闇に白光が滲み出して来た頃、このホテルの屋上で赤黒く光を発するものがあった。
「茂里沢運業、触森商社、守輪産業……次は……」
光の主はクリップで纏められたコピー用紙を眺め、髪を書き上げながら不適に笑う
「盛際商社……」
ホテルの影は急激に色濃さを増し、そして赤黒い光はより一層の大きさとなり、朝日の中に溶け込んでいった。
その日、伽耶岬支部に激震が走った。
「もう一度聞く。間宮はどこだ!」
突然の来訪者は、九条部長の胸ぐらを掴み、今にも喰い掛からんと言う表情で怒気を発する。
「それが……それが分かればこんな所には居ない!」
それに感化されてか、いつもは温厚な九条部長も怒鳴り散らすようにして朝倉の手を振りほどき、勢いそのままに突き飛ばす。
「……もういい‼︎」
そんな九条部長の態度に怯むこともせず、チッ、と舌打ちをしたと思えば、すぐさま踵を返しオフィスから飛び出して行った。
かつて無い程取り乱した九条部長は、掴みかかられて縒れた襟を正し、再び口を開く。
「固有魔法と言うのは、魔法商女の持つ絶対的な力の代表とも言える。裏を返せば、その力の痕跡があったと言うことはつまり……」
言葉を濁らせ、デスクに広げてあったバインダーを取り上げる。
そして、ポケットからペンを取り出し、先程の地図に印を付け始めた。
「今、我が社が抱えている依頼の全てだ。そして、この事件はこれを避けるようにして発生している」
ペンの蓋を閉め、バインダーを反対に折りたたみ頭を抱えて続ける。
「つまり、この伽耶岬市、ないし伽耶岬市周辺の会社で、取引や会議が行われる場所を突き止めて……」
ぶつぶつと呟き、頭に当てた手の人差し指でトントンとこめかみを叩いていた。
「あの、部長。もしかしたら……程度ですが、近々取引が行われる会社を一件知っています。そこに……事件の関係者が現れるかは分かりませんが……」
「本当ですか⁉︎」
真希にはかつて、一つだけやり残したことがあった。
濁りに押され、誘惑に負けたあの日。起きてしまった不祥事。その後始末をしていなかった。
「以前私が務めていた……盛際商社です