第十八話 解明開始、演算開始
「嘘? 私がですか?」
「はい。それを今から確かめさせていただきます。ですがその前に……」
電卓に手をかざし、目をつむって先程出たエラーを確認した。何も異常は無い、と。
そして同時に確信した。佐和森という男が嘘をついている、と。
確信は勇気に変わり、命令式を電卓からそろばんへと流し込む。
「……では爽守様、今回の一件について時給の減額を計画している人数は32名。これは新しいラインに就く人材以外の派遣及び入社から二年以内の新人社員の人数で間違いありませんね?」
「はい。派遣社員13名、本社員19名合わせて32名で間違いありません」
「ですが、エラーが発生したのはこの人数分の減俸額の総計。つまり、この32名への減俸額が多いか、そもそも人数が多いかのどちらかになります」
ガコンッと低い音が響く。真希の命令式を受諾し、再び絶対珠算が稼働し出したのだ。
「今回のコストカットは主に新しいラインの整備や新規流通の確保の為の資金集めとして行われました。お互いに余裕のあるところを削減して」
「はい、ですから32名分の人件費を……」
「その32名分の人件費は、本来爽守スチール社が請け負う必要がある分よりも多額に設定されていました」
電卓の電源を入れ、今問題になっている人件費の計算を入力しては消し、入力しては消しを繰り返す。
電卓とそろばんはリンクしているが、それによって計算機として使えないというわけでは無いと確認する為だった。
「佐和森電工社は先月にも新規雇用と事業協定を組んでいる為、今回に割ける資金があまり残っておらず、その結果爽守スチール社が負担する額が増えたというのが前提条件にありましたが、これは虚偽の報告だと推論します」
「虚偽だなんて、私は本当の事を言っていますし、そもそも弊社の社員名簿と協定相手の確認を貴女自身で確認したじゃありませんか」
「はい、確認致しました。ですが、どうしても計算が合わない為こうしてもう一度確認をさせて頂いています」
真希には虚偽が有ったという確信はあったが、今あげた点が必ずしもそれと一致するという確信は無かった。
けれど、柿谷が倒れ、絶対珠算が訴えかけるようにして流し込んできた情報に嘘があるとも思えなかった。
だから信じることにしたのだ。自分の後輩と、自分の経験と、目の前の大きなそろばんを。