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第五十三話 それから——

 柿谷みさは大きな成長を遂げた。と言うよりも遂げねばならなかった。朝倉京子、間宮巴、稲村明美と三人の魔法商女を失い、彼女は繰り上がりで“最優の魔法商女”の称号を手に入れる。

 結局彼女の十露盤はその後劇的な進化を遂げるでも無く、無難に器用に、入力の手間と出力のラグが少ない演算機として着実にスパコンもどきとしての道を突き進んでいた。

 反対に間宮巴は大きな降格を余儀なくされた。

 彼女には知識が無く、絶対的な魔法に頼りきった結果の悲劇から、自らの手で魔法を封印したのだ。その実ただ部屋の掃除をしている最中触媒となるボールペンを紛失し、発動出来なくなっただけだと言うことを知る者はいない。

 それでも彼女自身、積み重ねた経験を礎にまた積み上げていく事を苦とは思っていないようだ。しかし現実は庶務である。

 そして朝倉京子は……


「さぁて、それじゃあ面接を始めようか。初めまして優秀そうな若人諸君。まず自己紹介からだね。私は————」

 九条経営取引コンサルタント。その実態は、九条社の頃から変わらぬ九条瑛太の見つけてきた経営アドバイザー達と、候補含む魔法商女達。そして大量の泥人形による人員水増し経営だった。故に現在、彼等が請け負っていた職務、つまり……

「————社長から一般事務処理まで。よってこの人事も全部こなす、我が社が誇る過労死しそうな人ランキングダントツのナンバーワン。社長兼その他、朝倉京子だ」

 ……残念ながらアドバイザーはそれぞれ独立。もとより九条瑛太のカリスマによって繋ぎ止めていた優秀な人材達に、彼のいない今のこの会社に残る理由など無いのだから。

 現在残っている社員は魔女堕ちを経験した者を含め六名。無論支部は全て消滅、伽耶岬支部改め新本社のみとなった。

 そんな苦しい内情など関係無く、魔女問題により低下した評判から、今年の志願者はたったの三人だった。

「集団面接も随分寂しい感じになってしまったが、私から問う事はひとつだけ。君達は、魔法を信じるかい?」

 余談だが四ヶ月前、つまりこの年三月。つまり新卒内定者は漏れなく辞退している。



「あのぅ……少しお話いいですか?」

 オドオドと、彼女はスーツ姿の女性に声をかける。彼女の方が歳上なのだが、相手の女性のその凜とした出で立ちにどうしても怯んでしまっているようだ。

「その、立ち話もなんですし、そこの喫茶店にでも……」

「結構です。貴女も懲りない人ですね。何度誘われようとも私は今の会社を辞めるつもりはありません」

「いえ……あの……まだ、求職中でしたよね……」

 その不用意な言葉に、女性は鋭く敵意を向け睨みつけた。彼女はただ怯えながら、尻込みしてしまって向かい合うのが精一杯に見えた。

「そもそも! なんなんですか魔法商女って! いい大人にもなって何をそんな……ああもうッ! 兎に角、貴女の話を聞くつもりはありません。失礼します」

「あ、あのっ……待っ……」

 カツカツと歩み去って行くその背中に、彼女は精一杯の声を振り絞る。

「…………どうしても……どうしても貴女の力が必要なんです!」

 カッ、とヒールを打つ音が止まる。ぐぐっと握った拳を開いて頭を掻き毟ると、女性は踵を返して彼女のもとへと歩み寄った。

「……話を聞くだけですよ。えっと、円さん」

 彼女はその言葉に、満面の笑みを浮かべ両手で女性の右手を握りしめた。

「ッッ! はい! ありがとうございます! 九条……九条明美さん‼︎」

 その日の朝は雨が降って、雨露に濡れた街路樹は季節外れの紫の花を咲かせていたそうだ。

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