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第五十一話 普遍

「えっと、朝倉さん……?」

 少しばかりにやけて、わざとらしく真希はゆっくりと振り返る。その先にいた朝倉の視線は自分では無く、共に穴から出てきたもう一つの泥人形の方に向けられていた。

「そうですね、私から説明しましょう」

 人形、九条栄介は一瞬躊躇してから、渋々といった感じで名乗り出る。そして真希の方を一瞥してから、口を開けては言葉に詰まり、とうとう観念して話し始めた。この時真希は、自分に向けられた目が、申し訳ないと強く主張していた事に気付けないでいた。

「円真希さんは、私が選んで声をかけた候補の中で、唯一の特例なんですよ」

 真希は間違いなく期待をしていた。褒められるものだと、良く言われるものだと思っていた。そしてそれは、特例という言葉によって真逆であると叩きつけられる。

「彼女は唯一、魔法商女に成り得ない存在として智恵や柿谷さん、断られてしまった他の何名かの候補たちとは一線を画しています」

 真希は抗うことをやめた。一時でも浮かれたことを、それを間違いなく朝倉京子に察されたことを彼女は盛大に悔いた。

「魔法商女の条件。それは確固たる正義感を持っている事。京子にとってそれは強き事、智恵にとってそれは憧れられる事、柿谷さんにとってそれは曲がらない事。勿論全てが正しい訳でも間違っている訳でも無く、己の立ち位置をどこに持って行くのかと言う話です」

 そこまで話して、栄介は朝倉の方をまたチラリと伺った。どうしても言わなければならないのか。当然言わなければならない。二人の間にそんな視線のやりとりが交わされる。

 栄介は苦虫を噛み潰したような顔でまた続きを語り出した。

「…………彼女にはそれが無い。つまり……彼女は………………多少。多少なんですが……」

「プライドが無いのさ。自信が無い、勇気が無い、打ち込めるものも守りたいものも特に無い。自己が薄いんだよ」

 ダメ出しというより罵倒に近い朝倉の言葉に、全員が顔を青くする。

 しかし本人がそれを受け入れきれず固まっているさなか、彼女は自信満々に続けた。

「でもこいつは最後まで突っ張った。逃げ腰へっぴり腰で何度も諦めながら、結局最後まで頑張った」

 決して褒められていないその言葉に、真希は複雑な顔をする。そんな二人にため息をついて、栄介も続けて被せた。

「魔法……力を手にした時、利己的で楽な方に逃げ無かった。それも彼女が他の魔女達とも一線を画している理由です」

 ここに至って、ようやく瑛太も理解する。

 彼女は“特別が特別である”証明である事を。

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