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第三十五話 不解

「君のためだけに、創り上げた、ね。そうかい、それは良かった」

 目の前の泥人形に別段変わった様子は無く、強いて挙げるならばつい先程まで展開されていた酷く醜い光景からは想像出来ぬ、これまでのそれらと差異の無いその様子が最も大きな違和感でもあるだろう。

 朝倉京子は本心から安堵の言葉を口にした。そしてその口で、牽制でもなんでも無い、確実に叩き伏せるための一手を紡ぎ出す。

「発動、【Le jugement】」

 朝倉の背中に隠されていた小さな天秤は、人形が二つ並んでいた時に吐き出されたものだった。今にも膝から崩れ落ちそうな体で、間宮はただ朝倉の次手を可能な限り補佐する事だけに注力する。

 そんな彼女の献身は身を結び、アイコンタクトすら用いず、完全に一つの挙動だけでの不意打ちを成功させた。閃光がやがて収まり、三人の前には人形が土に還った跡が残るだけになる。

 そんな風に、朝倉は考えてなどいなかった。

「【磨り潰す】第六の腕、【叩き壊す】第四の両拳」

 目をくらませたまま、二人は巻き上がる旋風とそれが意味する追撃に驚いていた。泥人形に対してその行為は効果的で無いと彼女自身から説明を受けていたのだから。そしてなにより、その行為にかつて無いほどの攻撃性を感じていたからだ。

「重ね連ねて顕現、【突き穿つ】悲哀の——」




「——つめ……あと……ッ⁉︎」

 言霊を唱え終わると、朝倉は地に片膝を付ける。全身から汗を吹き出し、帰って来た目の前の光景を睨みつけた。

 そこにあったのは一片も欠ける事無く立っていた泥人形と、それを避けて隕石でも落ちたかのように陥没し、焼けた地面だった。

「理解ならしなくていい。などと言えど君の好奇心を抑えられないのも理解している。しかしその上で……」

 それは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、抉れて土など無くなった宙を歩き、俯く朝倉へと歩み寄り優しく語りかける。

「理解しなくて——」

「いやいや、そーじゃないって」

 二歩先までやってきた人形に、朝倉は無邪気に応えた。

 すくっと立ち上がり軽やかに体を翻すと、息を切らす間宮の方を向いて子供っぽく笑ってみせる。そしてすぐに駆け寄ると両肩に手をかけて座り込むように指示した。

「よぉーしよしよし……疲れたろうに。ほら、飴食え飴」

 呆気にとられると言うよりも、神妙な面持ちだった彼女を置いてけぼりにする程和やかに、朝倉はポケットから取り出した飴を押し付け、髪がボサボサになるまで間宮の頭を撫で回す。

 そうして散々間宮を混乱させると、次は柿谷へと標的を移し替えた。

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