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第二十五話 離脱

 口を抑えてなお響く柿谷の悲鳴と、それは同時に間宮の耳に届いた。周囲を取り囲む化物の群れが薙ぎ払われ、前方数メートルにわたり地面が抉り起こされる。

「まみやぁ! この車はぁーっ!」

 後部座席、斜め後ろに座る柿谷の口の動きとは別に発せられた朝倉の声は、自然と間宮の体を動かし、理解よりも先に確信を叩きつけた。

「——ッ! 左ハンドルですっ!」

 確かにそのワンボックスは国産右ハンドル車だったのだが、たった今。間宮が伸ばした手の先に、踏み出した足の先にハンドルもペダルも元からあったように生まれ、彼女の無茶に応えんとその機能を刷新させる。

「……本当に理不尽な力だ」

 土煙とスキール音を撒き散らしながら、大きな車体を横転せんばかりに傾けてスピンしたワンボックスは、その場で反転して何も映らない荒野の中を飛ばし始めた。

「京子さん! 一度離れてもう一度……京子さん?」

 運転席だった助手席を一瞥して、そこに突き立てられていたはずの槍と、彼女の姿を視認出来ずに間宮は視線をバックミラーの柿谷へと移す。それに少し遅れて気付いた柿谷も首を横に振ると、間宮は顔を青くさせまた車をUターンさせた。

 暫くしてまた九条の姿が見えてもなお、二人の求めた影は見当たらなかった。群れを避けるように進路を変更してまた走り回っても、彼女の背中を見つけられず、気付けば二人は開けた地平線の何処を向いても人形の影を消すことが出来ない状況に陥ってしまう。

「間宮さん……これ、どうしたら……」

 血痕さえ消えたシートに抱きつくようにして身を乗り出した柿谷の弱音も、それを叱責出来ない自身の不安も間宮を更に追い込んだ。

「……柿谷さん、シートベルトキチンとして、しっかり掴まってなさい」

 いつもより気持ち強い語調に、柿谷はおずおずと従い両手を使ってシートに体を押さえつける。間宮はそれをみて、腹を括ったようにフッと息を吐き出した。

「京子さんごめんなさい!」

「えっ……間宮さ——」

 “7”を指すタコメーターを睨みつけ、クラッチを繋ぐ。二速飛ばして三速、四速、近付いて来た影に、ブレーキをグンと踏み込んで、またすぐにハンドルを時計回りに切り込んだ。

「——ぁぁあああああ⁉︎」

 クラッチを蹴飛ばすように踏み、文字どおりヒールでアクセルペダルを突くとハンドルをまた反時計回りに軽く切り、人形と人形の間を滑りながら走り抜けていく。

 今度は左に、また右に。ワンボックスを左右に振りながら間宮はある地点を目指していた。

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