第二十一話 家
「ところでここは……」
キョロキョロと辺りを伺いながら間宮は独り言のように尋ねた。防音加工のなされた部屋の、その異常な物の少なさ、過剰表現でも無くその部屋には物という物が置かれていなかったのだ。
「ここ? あたしんちだよ。間宮は連れて来たことなかったっけ」
「昔に一度だけ……。いえ、そういう話では無くてですね」
一段奥に引っ込んだドアを開けて、朝倉は部屋の外へと二人を手招いた。そうして漸く間宮は合点の行ったという表情で朝倉の後を追っていく。
彼女達の前に現れたのは狭く急な階段と、抜けた先のドアを開けて広がる生活感の溢れるリビングだった。
「この冷蔵庫……こんな事になってたんですね……」
靴を脱ぐよう指示された二人がくぐったドアは、表に出て振り返ると業務用冷蔵庫の様な形をしていた。
「秘密基地の入り口をカモフラージュするのは当然だろ」
「いえ、それは良いんですけど……。そうなると今度は冷蔵庫はどこに……?」
微妙に動揺する二人の挙動と、その質問に朝倉はいつもの不敵な笑みを浮かべシンクの蛇口をひねり三角コーナーに水を注ぎ始める。
数秒もして二人は三角コーナーが水を捌けずにその中で水位を上げていくことに気がついた。
「……こんなもんかな」
わざとらしく慣れた行動に一々確認を入れ、朝倉は後ろの食器棚に手を掛け、それをゆっくりと左右に開いていった。
「うーわ……面倒くさいなこれ……」
「なぁっ⁉︎」
奥から現れた冷気と冷やされた食料品に、渾身のしたり顔で二人の方を振り返った朝倉に柿谷の冷たい一言が襲いかかる。
「もー京子さん、また甘いものばかりじゃないですか。ちゃんとしたご飯食べてないでしょう」
「お前ら……」
自身の遊び心を理解されず、少し不貞腐れて彼女はリビングを後にした。そして手にしていた靴を玄関で履き直し外へ出ると、日差しに照らされるワンボックスカーが彼女達の前に現れた。
「ええ、また車……?」
「お前な……隣町まで歩いて行きたきゃそれでも良いけど」
「そうじゃなくて、ほら。あの穴で直接バーっと行っちゃえばいいじゃん」
はぁと溜息を吐くと、駄々をこねる柿谷を後部座席にねじ込みそのまま運転席へと乗り込む。そして妙に不服そうな間宮を助手席に乗るよう急かして、朝倉はシリンダーを回した。
「あれで行かない理由は目立つから。説明はしたぞ、シートベルトしろよ」
不貞腐れた運転手と納得のいかない同乗者二人の隣町への急襲作戦が開始された。