第十九話 発破
何度目かの進入であったが、四人は未だその白い空間に慣れないでいた。距離感の欠如は足元の不信を呼び、フラつきながら朝倉のあとへ続く。
「……稲村。あんたに来て貰いたいところがあるんだ」
そう言うとまた指を鳴らし、壁も無い白い部屋に穴を開けた。そして三人を目で制すと、稲村を手招いてその穴の中へと踏み込んで行く。
「あんたの事をもっと早くに知ってたら、こんなバタついてる時に連れてこなくて済んだのにな」
「……此処は、一体……」
二人の目の前に広がったのはまたしても白い空間だった。ただそこが先程までとは違う、意図的に隔離された空間であることを稲村は理解する。
「可笑しな話ね。相変わらず白いだけで、影も無いのに床と壁を認識出来ている。それにベッドがあるように映っているのは、私の勘違いでも無さそうだわ」
白いシーツに、白い柱と柵を取り付けて。朝倉が軽くもたれかかるそれは、まごう事なく病院の看護ベッドの形をしていた。
「……誰か、いるの?」
その問いに目を閉じて頷く朝倉の、妙な穏やかさに惹かれ彼女はベッドの縁まで歩み寄る。そしてそこに横たわる白い包帯に巻かれた魔女の存在を認知した。
「…………そう、良かった。貴女は私が思い描いたよりもずっと……。いえ、この言い方はなんだか失礼ね」
呼吸も脈も感じられぬその生命に、稲村はそっと手を触れ固く目を瞑る。過去に想いを馳せるのではなく、未来に覚悟を決めるために。
「……きっと。ううん、間違いなく……。円さんは大丈夫だから。私よりも、未来をお願いします」
無邪気な幼い笑顔を朝倉に向け、彼女は深くお辞儀をした。そしてすぐにいつもの冷静な表情を取り戻し、出口を催促する。
「……じゃあ、行こうか」
その歩みを仲間の待つ下へ向け、名残惜しさを胸の奥に圧し殺して朝倉はまた穴を開けた。
そして顔を揃えた五人の前に、二つの入り口が開けられる。
「稲村、二人を頼んだ。そんで……」
側に寄り添うようにしていた間宮の背を、スーツの上からとは思えぬほど大きな音を立てて引っ叩き、そのまま肩を組んで穴の中へと進んで行った。
「……私達も行きましょう」
最後の最後までマイペースな朝倉に茫然として、顔を見合わせていた二人も自然と笑顔のまま穴へと向かう。
「……あれ、柿谷さん……?」
稲村に引かれ、柿谷を引いて向かおうと振り向いた真希の視界に、もう一人の魔法商女の影は見当たらなかった。