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第十八話 賽を投げる者

 その時は突然訪れた。しかしそれは誰にも予測出来なかった事でもなく、脚本通りに進む現実が不安の中でも彼女達を落ち着かせている。

 伽耶岬支部への、九条瑛太の化身の訪問である。

 ゆっくりと空気は凍りつき、捻じ曲がりながら伸び縮みを繰り返す空間にも五人は動じない。壁一面から人の形をした泥が蠢き出した頃には、既に部屋の中は裁きの輝きで満たされつつあった。

「……発動! 【Le pas assez de Jugement】」

 落雷のような激しい光が過ぎ、泥塊が部屋中に飛び散ると部屋は歪さを多少残したものの、本来の姿へと帰っていく。

「先生には別行動とっててもらって正解だったな。作りが同じなら先生も吹っ飛んじまう」

 そう言いながら朝倉は魔法の主の頭を撫で、また辺りを見回した。

「欠け落ちる最後の審判とはよく言ったもんさ。性質そのまま、性能だけゴッソリ落っこちてるが……」

「でもこれだけ有効なら……。私の模造品が混じっても、ましてや本家本元のそれなんて完全に致死兵器に成り得るわね」

 計算以上に危険な敵と、計算通りに有効な切り札が稲村の表情を弛ませる。彼女にとってイレギュラー過ぎた朝倉の存在や、間宮の能力は計画を狂わせる嬉しい誤算であった。

「勝機なんて万に一つも無いと思っていたのだけれど、こうも強い駒が揃ってしまうと少し張り合いがなくなってしまったような気さえするわね」

 強大過ぎるその存在の、依存してしまいそうな危うさに気付けた筈だったが、稲村の中にある憧れがそれを妨げる。失った時の絶望と、不敵なその背中とを天秤にかけると、どうしても彼女がうちのめされる未来など微塵も映らなかったからだ。

 その巨大な希望の塊は、もう一つのイレギュラーの腕を引いて三人の前に躍り出て、珍しく真剣な表情で口を開く。

「……間宮とあたしで本丸を叩きに行く。と言っても本命はこっちじゃ無い」

 そこに笑みはなく、寧ろ苦々しく歪んだ表情を浮かべていた。

「旧九条社跡、九条経営取引コンサルタントの私有地でありながら、現在地図上ではただの空き地。怪しさ万点、間違いなくバケモン共の巣ではあるだろうね」

 その口は「だけど」と言う言葉を紡いでから、暫く閉じたまま。漸く開いたとき、それは恐怖を薙ぎ倒す勇気に震えた言葉を吐き出した。

「あたしらがそこでおっ死んで来るからさ。美味しいところは頼んだよ」

 パチン、と指を鳴らしまた重低音を響かせて穴を出現させる。そして彼女達は己の戦地を取り戻す戦いへと繰り出していった。

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