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第十七話 勝機

「……? 一体何を言って……」

 目の前で震える強者の青ざめた顔に、稲村は疑問を飲み込んだ。その言葉が軽口や例え話では無いのだと、固唾を飲み込んで腹をくくる。

「……九条瑛太の冗談みたいな性質は、地形も捻じ曲げてしまえる、と受け取ったらいいのかしら」

「それは…………遠からず、でも解答には至らず、ってとこだろうね」

 視線を一度、スッと落とした後に朝倉は握った手をぐいと引いて間宮の方へと顔を向けた。

「理想の顕現。間宮の能力の、文字どおり上位互換みたいなもんだろうね」

「理想の…………京子さん、それって……」

 コクンと力なく頷くと、無理矢理浮かべた笑顔を引きつらせながらまた稲村へと向き合って発破をかける。

「あんたの勘定通りさ。間宮と引っ括めて二人で一、あんたと円と合わせて四人で漸く二に届くかどうか」

「そう、残念だけどギリギリで許容範囲内ね」

 苦笑いに皮肉を突っ返して稲村も朝倉の目線までしゃがみ込んだ。それは最悪の想定をその通りになぞる現実の容易さへの感謝も含めた当て付けである。

「朝倉さん、稲村さん……。それって……」

 二人の苦悶の表情は、言葉をつい発した真希だけでなくそこにいた全員に希望を与えていた。

「ごめんなさい。円さんの未来も食い潰してしまうかもしれないけれど……」

「…………っ! いえ、私は大丈夫ですから」

 そこには本来一切希望など無く、紛い物に発奮させられて恐怖をとりあえず棚上げしただけ、上辺だけの勇気である。

 ただそれが希望などハナから度外視された、絶望との対峙の際であることが、不本意ながら彼女達が立ち上がる原動力となるのだった。

「対峙って形だ。残念だけど最後の審判は切っても切っても終わらない、無敵の切り札だろうよ」

「…………貴女にも、こんな事を“また”させてしまう無力さには腹が立つわ」

 叱られる子供のようなバツの悪そうな顔をする稲村に、変わらぬ不敵な笑みを向けて彼女はまた背を押した。

「そもそも中立でもなんでも無い今回はノーカン、って事にしとけば良いよ。それに矜持なんてのは捨てて初めて恰好がつくもんさ」

 そう言ってすぐ横に座り込んでいた柿谷の背中を、強く三度叩くとその肩を強く抱き寄せ、反対の手で掴んでいた間宮の腕を引き、首根っこを捕まえて顔を寄せる。

「先生と先輩の勇姿はしっかり目に焼き付けとけよ。全部終わったら、お前が最優の魔法商女になるんだからな」

「っ〜〜⁉︎ 縁起でも無いこと言うな! みんな無事に、五人またここで一緒に働くんだよ!」

 肩に回った腕を振りほどくと、突き放してそう訴えた。その場に偽りの感情は無く、ただ漠然と勝利だけを確信しているのだった。

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