第十三話 問う
光を失った間宮にとって、音や匂いと言うものは重要な情報源であった。
エアコンでは無い本物の風が頬を撫でるようになってからずいぶん歩いて、車に乗せられてまた少し揺られると運転席のドアが開かれた。流れ込んで来た土の匂いはその時と合わせて二度嗅いで、先程までとは比較にならぬほど激しく揺さぶられる。
そうしてどれだけ経ったかもはっきりせぬまま、今度は緑の強く香る場所へと足を着けた。
「着いたわ。なんとなく察している通り、足元は舗装されてないから気を付けて」
手を引かれゆっくりと進んで行くと、木の擦れる音を境にまた風が断たれる。二人はやがて五人が集まる山中の家屋へとやって来ていた。
「さて、貴女にはまず謝罪を述べる必要があるわね。私の勝手の為に傷付けたこと、苦しい思いをさせたこと、本当にごめんなさい」
自分の方をぼんやりと向いているだけの間宮に、稲村は深く頭を下げた。そしてそのまま強くまた言葉を繋ぐ。
「そしてここからは私の勝手なお願い。私は貴女に魔法商女では無く、私と同じところまで堕ちて……その上でその力を貸して欲しい」
「ええ、分かったわ」
稲村は唇を噛み締めてとうに返って来ていた言葉を待った。困惑も、疑念も、ましてや敵意も彼女は向けられる事を覚悟した上で頭を下げているのだ。たとえどれだけ罵られようと、償えるものならば償い尽くす決意を固めていたのだ。
「……稲村さん?」
よって、稲村明美はその返事の意味を理解出来ずに立ち竦んでしまった。
「……どうしたの? 貴女と同じところまで、と言うのは分からないけれど、私の力ならいくらでも貸すわ」
稲村のしていた大きな誤解は、間宮にとって彼女は仇ではなかった事だ。己の存在を否定され、居場所を奪い取られた事よりも、稲村の訴えから感じた悲痛さが彼女の中で大事となっていた。
彼女にとってそれはとても度し難く、同時に涙を溢すほど喜ばしい事である。
「……ありがとう、ございます」
嗚咽を飲み込んで涙を拭うとまた、凛と張り詰めて彼女は本題を切り出した。
「まず初めに貴女の魔法……魔女堕ちした貴女の力の本性を暴かないといけないわね」
間宮の手を引き座間まで誘導すると、座布団を引いてそこへ座らせて話を始める。
「力の本性……。最後の天秤の本質は絶対平等。ならその対極で私があの時望んだ排他独善がそうなのかしら……?」
「いえ、私もそう思っていたのだけど……。ただそれだけの力とはとても思えなかった。それに——」