第十話 夜
伽耶岬支部に夜が訪れた。和気藹々として、それでいて柿谷をはじめ魔法商女にとって少なからず収穫のある会合のような団欒。あっという間に時間は流れ、まるで学生のような時間も終わりを告げるかと思われた。
「京子。止めてくれと頼んだ手前で勝手な話だが、策はあるのか。魔法商女に武器は無いんだ、それに……」
重要な、と言うよりも重篤な現実を喉元で抑え、九条の姿に内側から滲んだ不安を浮かべた。
おかしな話だが朝倉にとってそれは敵の狼狽を連想させ、自然に歪んだ笑顔でキッパリと言い放たせる。
「策、は無い。手立ても希望も特に無いね」
落胆する周囲を他所に朝倉の肩を背後から掴み、間宮は顔を並べるように背中から乗り出して師の前に宣言した。
「でも私と京子さんが居るんですから。稲村さんも、円さんも柿谷さんも。先生も居て、なんともならないなんて事は無いでしょう」
朝倉の不適で企みを含んだ笑顔とは違う、純粋で迷いの無い笑みは妙な説得力を醸し出す。
そんな間宮の顔を鷲掴むように押し退けて、朝倉は稲村に向けて質問をぶつけた。
「なあ、間宮の新しい天秤、と言うよりも変質した筈の最後の天秤について。それと、あんたの魔法……魔法の模倣だっけか。それを含めあんたの魔女の力について、色々教えてもらおうか」
それは疑問から来るものでは無く、確認と再認識に妙案を求めた質問だった。と言うのも天秤が増えた事と模倣魔法である事が分かっているのだから、その本質や起源がどうであれ出来ることに大きく差異が出る訳でも無く、ただ行き詰まった故にというわけである。
「最後の天秤に関しては一度破壊して、もう一度作り直したわ。かつて使っていた媒介を叩き壊し、また新しいボールペンにでもその役を担ってもらおうと思ったのだけれど……」
朝倉と向き合って話をしていれば、放っておいても視界に入る間宮にわざわざ視線を向け言葉を濁す。そして仕方なくと言わんばかりに朝倉を指差して彼女に説明を求めるよう訴えかけた。
「そうですね、発端はあの日京子さんも皆も帰ってしまって、私と稲村さんが盛際商社の会議室に二人きりで残された時……」
求めてない、と言いたげな表情を稲村に向けるもすぐ隣で説明を始めてしまった間宮にこれもまた仕方なくと言った形で耳を傾ける。
しかし朝倉を含め三人の魔法商女は長く気掛かりであったあの事件の行く末を本人の口から知ることになるのだった。