第七話 思い出
沈黙は短く無かった。状況を飲み込めぬ者達と、言葉を探す者と、ただそれを待つ者。それでもいつか静寂を裂いて言の葉を動かし合わなければならなかった。
そのきっかけを作ったのは、いつも予想外の人物である。
「…………これから……これからどうしましょう……」
それは打開案を求めての問いでは無い。ただ目の前の問題に途方に暮れた真希の弱音だった。
その弱気は伝染し、柿谷も間宮も俯かせ、遂には稲村も朝倉も解答を出せず俯いてしまう。
「……もう会社……伽耶岬支部には戻れないんですよね……」
真希に悪気があったわけでは無い。ただ、状況を整理しようと言葉にして並べているだけなのだから。柿谷も真希の言葉でやっと絡まった糸を解して辿り始めたのだから、むしろその行いは正しいものだ。ただ現実が彼女らにとって悪い物であるという点だけが、その行いを愚かしく映してしまう。
そんな中で唯一別の思考を巡らせる者がいたのもまた事実。予てより特異点として異彩を放ち続けてきた朝倉にとって、真希の弱音も新しい希望の選択肢に成り代わって見えた。
「…………いや、行こう。万が一、ではあるがもしかしたら……」
独り言のようにボソボソとそう言うと、朝倉はパチンと指を鳴らし何も無い空間に出口を見繕った。
そしてへたり込む魔法商女達を手招き、黒い穴の中へと落ちていく。
ドンッ! と地鳴りのように部屋全体が揺れる。余波のように繰り返し押し寄せる重低音にテーブルは揺すられ、並べられたティーカップは受け皿とガチガチ音を鳴らしていた。
ポットの水面はゆらゆらと揺れ、やがて出てくる五人の魔法商女を迎え入れる。
「…………お帰りなさい。円さん、柿谷さん。それに——」
五人は空間から部屋に移り、最初にまず目の前にいたその男に警戒心を持って身構えた。
そんな様子を見てか男は口を閉じ、再び開く時には少しだけ口角を上げて微笑みかけるのだ。
「——そうか。もう、そこまで来てしまったんだね」
その表情はどこか儚げで、しかし確かにそれは嬉しそうに笑って見せていた。
「楽しかったよ、九条瑛太。あんたに連れられて、先生と過ごして、間宮と歩んだあの日々は。間違いなくあたしにとっての宝物だったんだ」
「…………ああ、私も楽しかった」
決別の言葉。憂う事無く敵意をぶつけるべく高められた閧の声。
そこには最早情などあってはならない。事務的にそれを切り捨てるべきだった。
「…………京子。お前は優し過ぎる」
震える朝倉を抱き締めたのは、とても懐かしい居場所だった。