我が町へ (ショートショート68)
掲載日:2017/04/11
見なれた駅のホームに降り立った。
花を散らし、すっかり緑になった桜の木。町を出たときは、たしか満開だったっけ。
都会の生活にイヤ気がさしたのさ。
帰ってきたよ、我が町へ。
なつかしい商店街。
部活の帰りに立ち寄ったお好み焼屋。あの味、今も忘れてないよ。
改札口を出て我が家に向かって歩く。
帰ってきたよ、我が町へ。
古本屋「金色堂」は、今もあるんだね。
よく店先でマンガを立ち読みしたよな。だまって見すごしてくれた、老主人。
商店街を抜けると、田んぼと畑が遠くまで広がる。
帰ってきたよ、我が町へ。
子供のころに遊んだ小川。
畑のむこうに見える白い家。あれはたしか、初恋の女の子の家だ。
今もこの町で暮らしているのだろうか。
帰ってきたよ、我が町へ。
ひさしぶりの我が家。
ここには思い出がいっぱいつまっている。
母さん、元気にしてるだろうか。
帰ってきたよ、我が町へ。
「ただいまー」
オレは玄関の戸を開けた。
「どうしたんだい?」
びっくり顔の母さん。
「会社を辞めて帰ってきたんだよ。ここでいっしょに暮らそうと思ってね」
「この子ったら!」
母さんの目が丸くなる。
卒業して、都会で就職。
そして、ひと月で離職。
帰ってきたよ、我が町へ。




