我が町へ (ショートショート68)
見なれた駅のホームに降り立った。
花を散らし、すっかり緑になった桜の木。町を出たときは、たしか満開だったっけ。
都会の生活にイヤ気がさしたのさ。
帰ってきたよ、我が町へ。
なつかしい商店街。
部活の帰りに立ち寄ったお好み焼屋。あの味、今も忘れてないよ。
改札口を出て我が家に向かって歩く。
帰ってきたよ、我が町へ。
古本屋「金色堂」は、今もあるんだね。
よく店先でマンガを立ち読みしたよな。だまって見すごしてくれた、老主人。
商店街を抜けると、田んぼと畑が遠くまで広がる。
帰ってきたよ、我が町へ。
子供のころに遊んだ小川。
畑のむこうに見える白い家。あれはたしか、初恋の女の子の家だ。
今もこの町で暮らしているのだろうか。
帰ってきたよ、我が町へ。
ひさしぶりの我が家。
ここには思い出がいっぱいつまっている。
母さん、元気にしてるだろうか。
帰ってきたよ、我が町へ。
「ただいまー」
オレは玄関の戸を開けた。
「どうしたんだい?」
びっくり顔の母さん。
「会社を辞めて帰ってきたんだよ。ここでいっしょに暮らそうと思ってね」
「この子ったら!」
母さんの目が丸くなる。
卒業して、都会で就職。
そして、ひと月で離職。
帰ってきたよ、我が町へ。