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PHANTOM of Blue Eyes

作者: むるふ

初めての投稿となります。

高校生の時に、妹に何か短編小説を書いてと言われて書いたものに、少し手を加えたものです。

当時は、ものすごく良い物語が書けたように感じていたものですが、改めて読み返してみると、恥ずかしかったり、おかしいと感じるところがたくさんあるものですね。

短い作品となりますので、最後まで読んで頂ければ嬉しいです。

 ここにひとつの伝説がある。

『その男、蒼き瞳を持ち、双剣を駆使し、人々を救う』

 様々な足跡を残し、人々を救い歩いている男の伝説だ。

 邪心は何一つなく、寛容で、誰よりも広い心を持ち、強く、正しい。

 強さを賭する者の誰もがその男に憧れた。

 灼熱の剣は龍をも引き裂き、絶氷の剣は万物の魂を砕く。

 蒼き瞳は何よりも澄み、一点の曇りもない。

 人は彼をこう呼ぶ…『蒼い眼の幻』…と。


「おい、アスクス!遅いぞ!」

「ぼ…僕が遅いんじゃなくて…ハイベルが早いんだよ…」

 息を切らせながら、少年…アスクスは悪態をついた。

 やや小柄な身体に、中性的な顔立ち。絶世の、とまではいかないながらも、10人に聞けば8、9人は美少年と言うであろう、その整った顔立ちも、今は疲労の色に染まっている。

 息を切らせている二つの理由のうちのひとつである、その手元にあるものを見ながら、ついつい呟いてしまう。

「もうちょっと軽くなってくれないかな…『カトブレパス』」

 アスクスが『カトブレパス』と言いながら見た自分の手には、自らの身長に届こうかというほどの大きな剣が握られていた。

 この剣は生きていく上でとても大切なものだ。

 魔獣(モンスターとも呼ばれる)が頻繁に出現するこの世界にとって、自分の身を守るためにも武器の存在は必要不可欠である。町外れた田舎道にいる今は尚更だ。

「必要な道具なんだからな、仕方ないじゃん?」

 そんな言葉と飄々と言いのけた男、アスクスの息を切らせているもうひとつの理由であるハイベルは、とても大きな風呂敷を抱えていた。

 やや高めの身長に、細身ながらもがっしりとした体型。キリッとした目つきが特徴的で、いかにも元気有り余ってます、という感じの少年だ。

 最後に立ち寄った町から、野宿を繰り返しながら進んできて早3日、食料も底を尽きたために、次の町を探している最中だった。

 そんな状況でも、いつでも元気、というのがこの男、ハイベルだ。

「ほら、町が見えてきたぜ。もう一息だって!」

「ハイベル…僕はハイベルと違ってあまり体力がないんだよ…少しは…」

「わかってるわかってる! 早く行こうぜ!」

 ため息をつきながら、止まっている足にムチを入れるような心持ちで、アスクスは歩き出した。仕方ない、ハイベルはこういう奴だから何を言っても無駄だろう。

 まだ幾分か遠くではあるが、見えてきた町、『シーアニス』では、酪農や農業などが盛んな町だと聞く。食べ物には困らなさそうだ。

 そんな風にアスクスがひいひいはあはあ歩いていると、先行していたハイベルがこちらへ走って戻ってくる。

「アスクス、 向こうでモメ事があるみたいだぜ。モンスターだ!」

 途端に、アスクスの目の色が変わる。

「本当!?はやく行かなきゃ!」

 疲労などはすぐに忘れ、先ほどまで吐いていた弱音はどこへ行ったのか、アスクスは急いで事が起こっている場所へ向かう。

 そこでは、まだ幼い男の子が狼の魔獣に襲われていた。

「アスクス!オレはあいつを出すのには間に合わねえ、『カトブレパス』で決めてくれ!」

「うん!」

 アスクスはハイベルの言わんとしていることを即座に理解し、力強く返事をした。

 手にしていた大剣を両手で持ち、振りかぶったそのときだった。


 パアン!!


 どこかで銃が発砲した音が聞こえ、次の瞬間には目の前の魔獣は倒れていた。

 誰がやったのかは知らないが、今は子供のことが優先だと考えたアスクスは、すぐに男の子に駆け寄り、手を差し伸べた。

「大丈夫? どこか痛いところは?」

 男の子はアスクスの言葉に、首を横に振った。それを見て安心して、今度は発砲の音源を捜す…きっとまだ近くにいるはずだ。

「アスクス、発砲したのはあの女じゃねえか?」

 ハイベルが指を指した方向を見ると、そこには一人の女性が立っていた。

 男の子がいた場所から、結構な距離があったにも関わらず、正確に魔獣だけを撃ち抜いたようだ。

 アスクスは男の子の手を引いて、その女性のところまで行くと、その端正な顔を満面の笑みへと変えた。

「このお姉ちゃんが君を助けてくれたんだよ」

「お、おねえちゃん、ありがとう」

 今だ恐怖が消えていないようで、幼い子供の声は震えていたが、しっかりとしたその言葉に、女性はにっこりと笑い、

「うん、次からは気をつけなくちゃダメよ」

 と言った。

 男の子はうん、と返事をして、女性が気をつけて帰りなさい、と言うと、もう一度お礼をして町のほうに向かっていった。

「あの男の子、シーアニスの子だったのか、一緒についていけばよかったな」

 そういうアスクスに、女性が怪訝そうな顔をした。

「あの町は、今は近づかないほうがいいわよ」

 その何かわけありな態度に、アスクスが何事か考えていると、女性は言った。

「あの町は今危険なの、噂では『Aランク』級のモンスターが縄を張っているらしくて…あ、自己紹介がまだだったわね、私は『ハンター』のクラエス、ハンターランクはBよ」

 ハンターとは、いわば魔獣退治の専門家である。今まさに起きたように、人間が魔獣に襲われるという被害が相次いでいるため、魔獣に対抗し得る人間を集めた魔獣駆除組織、通称『MEO(Monster Extermination Organization)』が発足され、その一員は人々を救う『ハンター』となり、日々活躍している。

 ハンターランクというのはハンター個人の強さを区分する、一種の階級のようなものであって、挙げた功績によって進級していく。

 ランクはEランク ~ SSランクまで存在しており、クラエスのBランクというのはかなり強者のほうである。

 最上位のSSランクにまでなると『英雄』として人々に扱われるのだ。

 一方魔獣にもモンスターランクというものが存在する。目撃情報や過去に対戦したデータから強弱を判断し、モンスターもまたEランク ~ SSランクで分けられる。

「僕はアスクス」

「オレはハイベルだ」

 クラエスの自己紹介に便乗して、アスクスたちも自己紹介をする。

「あなた達はハンターなの?」

「いや、オレ達は自由気ままに旅をしてるだけさ」

 クラエスの質問にはハイベルが答えた。

 これで一般人、と明確に判明したわけで、ハンターであるクラエスとしては、当然危険な町には近づいて欲しくない。

「そう、じゃああまりあの町には近づかないで、すぐに私が退治するから」

 そう言うと、颯爽とクラエスは街の方へ行ってしまった。

「随分とせっかちな女だな」

「きっと…それだけ町のことを心配してるんだよ」

 アスクスとしては、自分も武器を持っていて、力になれる以上、手伝ってあげたいと言うのが本音だった。

「ねえ…ハイベル」

 アスクスの語り掛けに、ハイベルは、またか、という顔をした。

「ダメ…かな?」

「あー、どっちみち食料も尽きてるからな…あの町には寄らないといけねえしな」

 それは、つまり了承を意味していた。あえて面倒くさそうに言ったのは照れ隠しのようなもので、ハイベルもアスクスの願いには賛成だったのである。

「まあ、いざとなったらこいつもあるしな」

 持っている風呂敷を見ながら、ハイベルが言った。

「うん、僕も頑張るから」

 まるで母親にお使いを頼まれた子供のような、そんな口調でアスクスが言った。それを見たハイベルはやれやれと肩をすくめながら、

「ま、やりすぎるんじゃねえぞ」

 と一言だけ言った。

 …結局二人が出発したのは、クラエスがこの場からいなくなって、10分ほど経ってからとなった。


 ……………………


 二人は食料の買出しを終え、シーアニスの宿屋で三日間の疲れを取っていた。

「いやー、それにしてもここの飯はうまいなー」

 まさに絶品、と褒めるハイベルの言葉は当然のものだった。

 ここシーアニスは、町の規模としての広さはかなりのもので、その大部分が農場や畑が占めている。世界広しといえども、ここまでの農産物を生産している町は数える程だろう。

「そうだね、栄えているのに緑は豊かで、僕はここが好きだよ」

 採りたての野菜や果物、新鮮さもさることながら、味も絶品である。

「でもさ、なんつーか、なんか暗いんだよなぁ…町全体がさ」

 ハイベルが首をかしげながら言う。

 そのことについてはアスクスも同様の感想を持っていた。この町は、もっと活気があっても良いと思う。

 その原因はおそらく、今日偶然出会ったハンター、クラエスが言っていた通りなのだろう…町人全員が魔獣の存在に怯えているのだ…

「ハンターって、やっぱりキツイ仕事だよな、その町の人の期待が懸かってる」

 ハイベルの言葉に、神妙な面持ちでアスクスは頷いた。

 ……………………

 二人がそろそろ寝ようとしていると、ドアがノックされる音が聞こえた。アスクスは座っていたベッドから立ち上がり、ドアを開ける。

「こんばんは」

 ドアを開けるとそこには、昼間に会った『ハンター』のクラエスがいた。

「おー、クラエスさん、何か用かい?」

 ハイベルはベッドに寝転がりながら、クラエスに目を向ける。

「危険だから近寄らないでって言ったのに、もう」

 さして怒ってないような口調で、クラエスはおどけてみせる。

 少々の間を置いて、彼女は『ハンター』としての言葉を続ける。


「あなた達は旅をしていると言ってたわね。ふたりとも武器を持っているのでしょう? 私にもしものことがあったらこの町の人を避難させて頂戴」

 もしものこと、それはつまり任務が失敗したら、という意味だ。

「もしもって…あんたは自信ないのか?」

 先程よりも重みのある口調でハイベル。

「…もしも、よ」

 ほんの少し余裕の消えた笑みで、クラエス。

 アスクスは一人、何も話さずに会話の行く末を見届けていた。

 …帰り際クラエスが、作戦の決行は明日であること。この町から東へ行った森の中に、モンスターの住処があることを告げ、部屋を去っていった。

 ……………………

 その夜…

「なあ、アスクス…ここいらに住み着いているモンスターって…」

「うん…クラエスさんには気の毒だけど…」

「見たところあの銃は『アウトサイダー』だったな」

「そうだね、でもきっと、勝てないよ」

「…やっぱり行くのか?」

「うん、困っている人は助けてあげなくちゃ」

「ふっ…そうかよ…」

 ……………………

「ねえ、ハイベル、起きてよ!もうクラエスさん、行っちゃったよ!!」

 クラエスは朝早くに出発してしまった。二人はというと、ハイベルがなかなか起きず、こっそり後をつけていく作戦が実行前から失敗していた。

「んにゃ…アスクス…」

「寝ぼけてる場合じゃないってば! 僕一人で行っちゃうよ!」

 なかなか起きてくれないハイベルに、アスクスが手を焼いていると、寝言を言っている間に意識が覚醒しつつあったのか、ハイベルが急に起き上がった。

「… はっ! アスクス!! 今何時だ!?」

「…クラエスさん、もう行っちゃったよ?」

「ちくしょう、すまん、アスクス」

 昨日から随分と大事そうに持っている大きな風呂敷を背負いながら、ハイベルがアスクスに謝った。

 アスクスも、いつもよりも真剣な顔をして、愛剣『カトブレパス』を握り締める。

「さあ、行こうか」

 助っ人であるはずの二人の出発は前途多難であった。

 ……………………

 パアン!! パアン!!

 シーニアスの町を出て東へ進んだ森の中に、銃声が響き渡っていた。

「これで最後!!」

 パアン!!

「グアアァァッ!!」

 銃声と共に魔獣の咆哮が森の中に響き渡る。

「この手ごたえのなさは一体…町は何故MEOに要請したの?」

 クラエスの愛銃『アウトサイダー』によって打ち抜かれ、転がっているモンスターは、良くてDランクそこそこの魔獣である。

 Dランクという位置づけの定義はそもそも『厄介ではあるが人間への影響は少ない者』であり、Bランク級のクラエスが派遣されたのも、Aランク級のモンスターが存在する、という前情報があったからだ。

(どうして…町の皆は何に怯えていたの?)

 そう考えていると、どこか遠くから咆哮が聞こえてきた。


 ウオオオオォォッ!!


「…何!?」

 この世のものとは思えないくらい大きい咆哮、クラエスは自然に身が竦むのを感じた。

 ドシン…ドシン…ドシィン!!

 段々と足音が近くなってくる…クラエスは銃を持っている手が、異常に震えていることに気が付いた。

 魔獣でこの殺気…Aクラスのモンスターは、確かに実在したようだ。

 しかし妙だ…Aクラスのモンスターなら過去に二度退治しているクラエスが、どうしてこんなにも怯えているのか…。

 考えている間に、目の前に魔獣が姿を現した。

 対峙してみてやっと、クラエスは悟る。このモンスターはAランクではない…モンスター最上ランク、SSランクのモンスターだということに。

 3mをも超えるであろう大きさ。全身が体毛に覆われており、獰猛な性格で、人の言葉を理解できると言われる獣族の王…。

「プロトギガース…」

 クラエスは自分の浅はかさを呪った。Dランク程度のモンスターとの戦闘を繰り返していく内に、更に上位のモンスターがいる可能性を疑わなかった。明らかに自らの失策だ。

 A級モンスターがいると聞いて、遠路はるばる救いに来たこの町で、まさか自分が闘ったことのないSSクラスのモンスターと対峙するとは…夢にも思っていなかった。

 [人間!! 我が同胞達をよくも殺してくれたな!! この恨み、思い知るがいい!!]

 SSランクモンスターの定義『人語を話し、かつ人間の命を喰らう者』

 どうしてかは未だ解明されてはいないが、SSランクのモンスターは好んで人間を喰らうという。


 獰猛で、更には逆鱗に触れた獣王に、一人の人間がどう抵抗しろというのだろう…プロトギガースの怪力にかかれば、人一人を八つ裂きにするくらい造作もない。

 ここで自分が死んでしまっては町の人達は確実に皆殺しだろう…クラエスは諦めそうになっていた心を奮い立たせる。

 …一回でも攻撃を喰らえば、私は死ぬ。

 そして相手がまだ攻撃を始めていない今、集中して狙えるのは初めの一回きりだ。

 クラエスは最後の望み、破裂弾、バーストブレッドを愛銃『アウトサイダー』に装填した。

 破壊力は一級品、着弾と同時に、中に仕込まれた揮発性、爆発性の高い火薬が着火し、爆発する銃弾だ。

「獣王プロトギガース…勝負!!」

 瞬時に隠れて装填した銃を相手に向け、照準を合わせる。ハンターとして、この一撃は外せない…!!

 パアン!! …ドガアァァン!!

 銃弾から出た音とは到底思えないような爆音が辺りに響いた…その爆発から出た煙でプロトギガースの姿は見えないが、ただでは済んでいないだろう。

 …と、思った矢先。

[小賢しいわ人間!! こんな物で我を倒せると思ったか!!]

 強い…あの爆発で怪我ひとつ負っていないことを見ると、相当な防御力だ。

 プロトギガースを倒せるような策はもう無い。逃げることも許されない。状況は絶望的だった。

[お前を殺した後に町の者も全て殺す…同胞達の弔いだ!!]

 先ほどまで5ⅿ程離れた場所にいた獣王が、一瞬で目の前に来ていた。力は当然のことながら、速さ、防御力まで兼ね揃えている…まさに獣王と呼ぶに相応しいだろう。

 そしてプロトギガースが荒々しくその腕を振り上げる。

 皆ごめん…町を守りきれ無かった…。

 ・・・ガキイィン!!

「おっと、諦めるのはまだ早いぜ、クラエスさん」

 死を覚悟した直後、話しかけられたことに戸惑いを感じながら、クラエスは無意識に閉じていた瞳を、ゆっくりと開けた。

 そこには昨日出逢った少年、ハイベルが、大きい何かを持って立っていた。

[我の攻撃を止めるとは…お前は一体!?]

「オレはハイベル、ヒュージ=ハイベル=アキュレイトだ。すぐに名乗った意味もなくなるだろうが、覚えときな!」

「ヒュージ=アキュレイト!?」

 クラエスは驚きを隠すことが出来なかった。ヒュージ=アキュレイトといえば、今は行方不明にこそなっているものの、現存するハンターでは最上級、SSランクのハンターだ。

『ガイアシールド』と呼ばれる、2m近い長さを誇る伝説の大盾を使い、数々のモンスターを倒してきた人の名前である。

 目の前でその名前を告げた本人、ハイベルも、とても大きな盾を持っている…何を包んでいるのか不思議には思っていたのだが、あの風呂敷に入っていたのは『ガイアシールド』だったのだ。

「クラエスさん、危ないから、オレ達に任せて、下がってな」

 そう言われて後ろを見ると、大剣を持った少年、アスクスが立っていた。

「『カトブレパス』…お前の本当の姿になってもらうよ」

 そう言ってアスクスは『カトブレパス』を両手に持って掲げる。

「さあ、オレ達はお役ごめんだ、クラエスさん、非難するんだ」

 尊敬するべきSSクラスのハンター、ハイベルに言われ、黙ってその通りに動いた。

「本当の力を…今!!」

 そう言うとアスクスの掲げた剣が眩い輝きを放ち始める!

 そして次にクラエスが見た瞬間には、二つの剣になって、アスクスの両手に、それぞれ握られていたのだった。

「ハイベルさん、アスクスにやらせて良いのですか!?」

 実はこの飄々とした男は、自分が尊敬すべきハンターだったという事実。そんなにも強い人が、どうして、見る限りあまり強そうでないアスクスに任せるのか…それが不思議で、クラエスはハイベルにそう尋ねた。

「よく見てみろよ…あいつの眼を」

 言われて、横からではあるが、アスクスの眼を見たクラエスの顔が驚愕に染まる。

 薄く、ぼんやりとではあるが、段々とアスクスの両目が、蒼くなり始めていた。

「蒼い眼…双剣…」

 今のアスクスは、ハンターの間で英雄とまで言われている人物を思わせる姿だった。

「ハイベルさん…アスクスの…本名は?」

 ハイベルが実はSSランクのハンターだった、というのもあるが、勘、のようなもので、アスクスの名前にも何か感じるものがあるだろうと思い、クラエスは聞いた。

 ハイベルの口から出た名前は、クラエスを再度驚愕させるには充分だった。

「本名は、リロイ=アスクス=アークライン、だ」

 リロイ=アークライン、それは噂には聞いていた、伝説の男の名前。

「それじゃあ…彼が…『蒼い眼の幻』…?」

 震える声で言ったその言葉は、にわかにも信じられないが、認めざるを得ないだろう。ハイベルがそう言った、ということもあるが、目の前にいるアスクスは、昨日とは全く違う。別人だと言っても過言ではないような雰囲気を放っていた。

「獣王…君はどうしても人間と共存はできないの?」

 静かに、諭すように、アスクスは語りかける。

[無論、それは不可能だ、お前達は我々を、我が同胞を殺した、言い逃れは出来ん!!]

 プロトギガースは堪忍袋の緒が切れたというように、会話が終わるか終わらないかのタイミングで攻撃を繰り出す。

「そう…」

 プロトギガースの渾身の一撃を難なくかわし、アスクスは双剣を構えた。

[人間…我の一撃をどうしてかわせるのだ!?]

「残念だよ…これで僕は、君を倒さなくてはいけなくなった」


 異形の大剣『カトブレパス』

 その大剣の本来の姿は双剣。

 右手に握られるのは灼熱の剣。龍をも引き裂く、炎神・『アルスハルク』

 左手に握られるのは絶氷の剣。万物の魂を砕く、氷神・『セイントレイル』


「僕は人間が好きだ…だからこそ…君を生かしてはおけない」

 この小さな少年に、獣王と称されるほどのモンスターは気圧されていた。

 蒼い眼から放たれる鋭い眼光、その光は、もう間も無く、お前の息の根を止めると主張しているようだった。

「ごめんよ…そして…」


 さようなら


 アスクスは右手に持っていた剣、炎神『アルスハルク』でプロトギガースを斬りつけた。瞬間、クラエスのバーストブレッドでも一切、傷を負う事が無かった獣王の体に流血が迸った。

[グアアァァッ!!]

 数秒の間にどれだけの裂傷を与えているのだろう。凄まじい剣速に、獣王はアスクスの攻撃を為す術無く受けることしかできない。

 そして、左手に持っていた剣、氷神『セイントレイル』を強く握り…光の如く一閃、強烈な牙突を繰り出す。

 刺した瞬間、獣王・プロトギガースは凍ったように動かなくなった。

「灼熱と絶氷の狭間で…永久の眠りを」

 氷神『セイントレイル』を突き刺したまま、炎神『アルスハルク』を更にプロトギガースに突き刺す。

 凍っていた身体を砕かれながら、灼熱の炎に焼かれたことで、プロトギガースの周りの空気は異常なほどの膨張を始め、獣王の最後の咆哮と共に、爆発した。

[グ…グオオォォォォッ!!]

 ドガアァァァン!!


 大きな爆発に目を瞑って顔を背けたクラエスが、爆発でアスクスがどうなったのかが心配になって見ていると、徐々に晴れてきた煙の中に二つの影があった。


「ったく、やりすぎるな、って言っただろうが」

「そうだね、ありがとう、ハイベル」

 先ほどまでクラエスの隣にいたハイベルが、あの大爆発からアスクスを守るために、『ガイアシールド』で防ぎに行ったのだった。

 息の合ったコンビプレイに、獣王が滅んだことを喜ぶのも忘れ、ただただ、二人を見ていることしかできなかった。

 ……………………

 もう町には戻らない、と二人に聞いて名残惜しくも別れたクラエスがシーアニスに帰ってきた頃には、町人が入口に総出で迎え出ていた。

 期待と、不安に満ちた表情。その表情を、喜びだけに変えるために、言った。

「もう大丈夫」

 その瞬間、町人は盛大に喜びを表現し、皆がクラエスに賛辞を述べる。

 その中には、昨日助けた男の子の姿もあった。

 …少し経ってから町人の一人がクラエスに近づき、こう言った。

「本当にありがとうございます、クラエスさんが居てくれなければ、今頃…」

 その言葉を、クラエスは首を横に振ることで遮った。

「私は何もしていません…この町を助けたのは…そう」


『蒼い眼の幻』です…


 ……………………

『蒼い眼の幻』、リロイ=アスクス=アークライン。

『万物不可侵の盾』、ヒュージ=ハイベル=アキュレイト。

 いきさつはわからない、なぜ一緒に行動しているかも分からない。

 ただひとつ、言えることは…彼らは今日も大好きなものを守るために戦っているということだけ。



 ここにひとつの伝説がある。

『その男、蒼き瞳を持ち、双剣を駆使し、人々を救う』

 様々な足跡を残し、人々を救い歩いている男の伝説だ。

 邪心は何一つなく、寛容で、誰よりも広い心を持ち、強く、正しい。

 強さを賭する者の誰もがその男に憧れた。

 灼熱の剣は龍をも引き裂き、絶氷の剣は万物の魂を砕く。

 蒼き瞳は何よりも澄み、一点の曇りもない。

 人は彼をこう呼ぶ…『蒼い眼の幻』…と。

最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。

実は続編というか、同じ設定のお話ももう一つあるので、その内修正して投稿できればいいなぁと思っています。

本当にありがとうございました!

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