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無意味(ナンセンス)コメディシリーズ

お湯を かけてから三年

 コンクリートに あいた穴を見つけた。


 街中にある月極の駐車場……の前の舗道。くぼみだと思っていたら、小さな直径三センチくらいの穴だった。近づいてみて、初めて わかった。

 僕は非常に気になった。穴の先は見えない。


「何か根性と名の付く物が引っこ抜かれた跡だろうか。それとも、柱でも立っていたのだろうか? ……いや、それは無いな。こんな駐車場の入り口で……いやでも、元は あって、邪魔だから撤去されたとか。ブツブツ」

と、コンビ二帰りの僕は腕を組んで、僕なりに推理していた。

 ちなみに、もうすぐ受験日。

 たまには勉強組から脱線したいのさぁ。


「何か居たりして。ヘビとか」


 そんな事を思いついた。そして さらに思いついた。


「水を かけたら、溺れるかな」


 昔、アリの行列に××××を かけた事がある。もちろん今は そんな事は しない。たぶん。

 僕は手に持っていたコンビニ袋から、買ってきたばかりの缶飲料を取り出した。

 新商品! 『ホット・ウォーター』!!


 ……ただの、お湯。売り文句にダマサレタ。


「やってみよう」

 僕はフタを開け、お湯を穴に注いだ。

 すぐに溢れてくるだろうと思っていたのに、なかなか液体が見えてこない。……思ったよりも深い??

 缶の お湯、すべて無くなってしまった。


 ……そしてジッと待つ。


 …………


 ……?


 ……


 何も起きない。

「ちぇっ」

 僕は舌打ちして、立ち上がって去った。



 あれから三年。

 僕は高校に受かってから家を離れていて、しばらくぶりに家へ帰ってきた。そして しばらくぶりに、あまり変わりのない近所を歩く。やはりコンビニ帰り。袋を一つ提げていた。

 月極の駐車場の前を通りがかる。そして入り口付近にある穴に注目する。

「ああ……そういえば」

 僕は思い出していた。この穴に お湯を注いだんだっけ。意味不明な事したなぁ。


 穴を覗き込んでみる。穴の先は わからない。

「気になるけどなぁ……。ブツブツ」

 きっと僕は疲れている。

 ちなみに、もうすぐ受験日。ああ脱線したい。


「うーーん。気晴らしに」

と、ゴソゴソとコンビニ袋から、買ってきたばかりのペットボトル飲料を取り出した。

 新発売! 『奇跡のウォーター』!!


 ……ミラクルとミネラルを かけているの、か? ……


「やってみるか」

 僕はフタを開け、『奇跡の……』=要するに水、を穴に注いだ。

 500ミリリットルあったはずだが、すべて注ぎきってしまった。どれだけ深いんだ この穴。


 ……少し待つ。


 そうしたら、しわがれた声がした。


「冷た」


 ……


 ……ええ?


 僕は絶対、風の音かと思った。それかカラスの声とか。少なくとも、幻聴にも近いもの。

 ハハハハハ! まさか!! こんな穴から声が?


「誰か居るんですか?」

と、とても馬鹿にして穴に呼びかけた。答えが返ってくるわけがない。そう思っていたのに……。


「ここに住んでいる事は、秘密にしておいてくれ」


 ……返答がきた。

 僕は言葉の意味そっちのけで、立ち上がって家へと走り出した。とても素早かった。


 家に帰ってすぐ布団にくるまって寝た。電灯は つけっ放した。


 ……



 あれから、さらに三年。

 僕は大学に受かってから都会に暮らしていたのだが、しばらくぶりに家へ帰ってきた。今度、バイトの面接が ある。履歴書を買いにコンビニへ行き、その帰りに突然、身の毛が立った。

 月極の駐車場。の、数メートル手前で立ち止まる。

 以前と ちっとも変わってない この風景。

 穴も……。


 そこに、ある。


 ……何かが、住んでいるらしい……。


 僕は、いろんな事を想像してきた。あの下には地下王国があって、地底人が いるんでないだろうか? とか、僕が お湯を始めに かけた事でドライフリーズされていた魔物が復活したんでないだろうか? とか……。


 ……僕は、疲れている。


 コンビニの袋の中には、缶ビールが入って……いた。




《END》





【あとがき】

 手を突っ込む勇気が欲しい時があります。


 ご意見・ご感想ありましたら、お願いします。

 本作品は、読者様の ご指摘により加筆・修正をしています。(H19.11.6.)

 ありがとうございました。



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― 新着の感想 ―
[一言]  また、おじゃましています。  『お湯を、かけてから3年』、タイトルは何かを期待させるような、面白いタイトルだと思いました。  読んだあと、お湯とかけて水ととく、その心は? という、・・・謎…
[一言] 初めましてm(__)m読ませていただきました。 久しぶりにこの手のコメディーを読みました。最後のオチはきれいにオチてたと思います。きちんと吹けました(笑) ただこの物語は序章に過ぎない…そん…
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