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窓越しの恋

ホラーではなく、たぶんファンタジー!昔に書いたものなので、筆者は中身覚えていません・・・。ツッコミは受け付けておりませんので・・・((((゜Д゜;))))

16才の夏。


部活の練習に右足首を骨折した俺は、夏休みをまるまる病院のベッドの上で過ごすことになった。


唯一の救いは、美人看護士のサキさんが俺の担当になったということと、個室に入れた事だ。


でも、個室って高いんじゃなかったっけ?


疑問に思った俺は検温に来たサキさんに聞いてみることにした。


「サキさん。個室って、大部屋よりも高いんですよね?」


「ええ。高いわよ~。」


「やっぱり。でもそれなら、母さんが個室になんて入れてくれるわけが・・・」


「ああ、この個室は別よ。大部屋と同じ料金だし、他の大部屋は今いっぱいだから。」


「へっ!?大部屋と同じ料金って?」


「あれ?お母さん言ってなかった?」


「いえ。なにも。」


「・・・」


「あの?」


「う~ん。言わなきゃ言わないで、何かあったら困るから言うけど・・・」


「困るって何が?」


「君さ。幽霊とかって大丈夫?」


「幽霊?」


「うん。見えるほう?」


「いえ。ぜんぜんって、ま、まさか・・・」


「出るのよ。この個室。」


「出るって・・・」


「幽霊。でも、見えないなら大丈夫ね。」


そう言った後、検温を終えたサキさんは病室を出て行く。


俺は呼び止めるのも出来ないくらいにショックを受けていた。


幽霊?そりゃ、今まで一度も見たことないけどさ、それは幽霊が出るような場所には近づいた事がないだけであって、というか。避けてきたわけで。


その俺が幽霊の出る病室に一ヶ月入院・・・


しかも、母親は知っていて何も言わなかったし・・・


どうせ、個室の値段が大部屋と同じだという話だけを聞いて、肝心のというか。一番大事な「幽霊の出る病室」という部分をスルーしやがったな。


いや、ちゃんと聞いていたのか?


そういえば、着替えを運んできた後、用事があるからと言って、ろくに話もせずに病室を出て行ったな。


母親の罠に怒りを感じつつも時は過ぎ、夕食の時間が来て、消灯時間が来てしまった。


一応、サキさんには夕食の時に幽霊の事を詳しく聞いてみたが、前の患者さんが見たという幽霊を看護士が確認したが、まったく出てこなかったそうだ。が、その噂はその患者さんにより病院内に広まり、その後、町全体に広まってしまい。

そのため、この個室は「開かずの間」として、俺が入るまでは誰も入室していないそうだ。そういえば、学校でそういう怪談話を聞いた事はあったが、まさか俺がそこに入る事になるとは・・・


幽霊はその前の患者さんもちゃんと見ていなかったのか子供の霊とだけで、男か女かもわからない。


つまり、俺が嫌でも確認する事になる。

なぜなら、母親は転院を認めなかったからだ。理由は「お見舞いに来るのが大変になる」という、母の事情で・・・


まあ、寝てしまえば大丈夫だろうと、自分を励ましつつ眠りに就いた。


が、もちろん寝られるはずもなく。


頭まで掛け布団をかぶりながら、どんな幽霊だろう?


今まで見たことのないものを見るチャンスなのでは?


頭の中を好奇心が支配するのにはそう時間は掛からなかった。


そ~と、掛け布団から頭を出して部屋を見渡してみる。


特に変化はない。窓から少し明かりが漏れているくらいで、まったく異常はない。


ただの噂だったか。安心しつつも何処かがっかりもしていた。


窓から漏れる明かりが少し気になるので、カーテンを閉めようと窓の前に立つと、


「!?」


で、で、で、で、で、で、出たああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!


窓には外の景色ではなく。この部屋が映っている。そこまでは光の加減でありえる話だが、俺がさっきまで寝ていたベッドの上に見知らぬ少女がいた。


慌ててカーテンを閉める。が、意味がない事に気付く。振り返って、ベッドの上を確認するがその上には窓に映っていた少女はいない。


あれ?見間違いかな?目の錯覚?幽霊が出るという噂が見せた幻覚?


カーテンを閉めて少し落ち着いたのか、ベッドの上に誰もいない事を確認した俺は。自分の頭を疑いつつも、確認の為にカーテンをそうっと開けてみる。


やっぱり。目の錯覚じゃないし・・・


二度目で少し落ち着いていた俺は窓に映る少女をまじまじと確認する・・・


かわいい。


冷静に見た俺は窓に映る少女が、アイドル並みにいや、そこらのアイドルよりもかわいいことに気付いた。


その美少女に釘付けになった俺はあらゆる情報を吸収しようと窓に張り付き観察する。


少女はベッドの上で枕を背中に敷いて座っている。ベッドの上に備え付けのライトを点け、腰まで掛け布団をして膝を立てその上で本を読んでいた。


黒髪のロングで腰まで伸びているようだ。部屋の様子は俺の部屋と変わりなく。違いはベッド横の棚の上に花が飾ってあるくらいだ。


しばらくの間、少女の本を読む姿に見とれていると、少女が少し顔を上げ目頭をおさえる。目が疲れたのかな?


本にしおりを挟み、棚の上に置くとライトを消して体をずらしている。と、こっちに顔を向けた。そして、動きの止まる少女。


えっ?もしかして、俺の事が見えるのかな?


しばらく動かない少女を見ていてそう思った俺は、試しに笑顔で手を振ってみる。


少女が慌てて掛け布団をかぶる。やっぱり見えている?


そ~と、布団から顔を出す少女にもう一度手を振ってみる。


今度は布団をかぶらずにこっちを恐る恐る見ている。そして、ベッドを降りて窓に近づいてきた。


少女が窓に手をあわせ、口が動く。たぶん、「あなたは誰?」と、聞いているのだろう。


「俺はリョウ。リョ・ウ」と、口を動かすが、少女は頭をかしげる。そこで、窓に息をはぁと、吹きかけてそこに名前を書く。

すると、通じたのか、少女も「私はサクラ。サ・ク・ラ」と、口を動かした後に窓に息を吹きかけて名前を書いた。


鏡で映したように文字が逆に書かれている。向かい合わせのようだ。


少女がふと、何かを思い立ったかのようにベッドに戻り、棚からノートと鉛筆を持って戻ってきた。そして、目の前で何か書き、窓に押し付けた。


「そこはどこ?あなたは幽霊?」と、書いてあった。


書くものがない俺は説明に困りながら、窓に息を吹きかけ病院の名前を書き、ジェスチャーで幽霊じゃない事を示した。


サクラちゃん(まだいくつかを聞いていないが多分年下かな?) は、それをみて笑いながら、またノートに書き窓に押し付ける。


「私も同じ病院。何号室?」と、書かれていた。


俺はまた、窓に息を吹きかけ返事を書く。すると、サクラちゃんは驚いた顔をする。そして、慌ててノートに書いて窓に。


「同じ部屋。どういうこと?あなた何年生まれ?いくつ?今何年?」と、質問攻めだ。


同じ部屋だということに俺も驚きながら、窓に


「16。1990。平成18年。」と、書く。


それを見たサクラちゃんはさらに驚いた顔をする。そして、


「私も16才。だけど、平成って?1990年生まれだから・・・そっちは2006年って事?」と、ノートに書いてある。


それに対しうなずいた。そして、俺は窓に


「そっちは何年?」と、書いた。


それを見たサクラちゃんは迷いながらもノートに書いて窓に押し付ける。


そこには「1986」とだけ書かれていた。同い年ということにも少し驚いていたが、実は年上。しかも、20年前。


窓を隔てて20年前のサクラちゃん、じゃなくて年上だからサクラさん?ああ、何がなんだかわからなくなってきた。


サクラさん(一応年上のようなので)が、ノートに


「今日は休みましょう。」と、書いてきたので俺はそれに同意し、その日はそこまでで眠りに就いた。


次の日の朝、朝の検温と点滴の交換で起こされた俺は窓を見たが、そこには天気の良い空が見えるだけだった。夢でも見たのかな?


朝食を食べながら昨日の出来事を思い出す。


窓に映る少女。サクラ。同い年だけど、20年前。非現実的な事がここで起きたという事が信じられない。


朝食を食べ終えた俺は、食事の片付けに来てくれたサキさんに聞いてみた。


「サキさん。20年前にこの部屋に居た人って分かります?」


「え?20年前?」


「はい。」


「何でそんな事を知りたいの?」


「いや。なんとなくそれくらい前の人がどんな人かなぁ。と、思って・・・」


「もしかして、幽霊を見た?」


「いえ。み、見てないですよ。」


なぜか、サクラさんのことを隠してしまった。サキさんはそんな俺に疑いの目線を向けつつも調べてくれるそうだ。


「夕食の頃には教えて上げられると思うから。」


そういって、部屋を出て行ったサキさんを見送った後、俺は売店に行きシャープペンとノートを買いに行き、その時見かけた新聞と週刊誌も一緒に買って部屋に戻った。


買ってきた週刊誌を読みつつも、頭の中はサクラさんと20年前という事でいっぱいだった。


なぜ、窓に20年前の同じ部屋が映し出されたのか?しかも、なぜかサクラさんとはリアルタイムのように意思の疎通が出来るし・・・


答えの出ない問題に頭を悩ませていると、ふとしたことに気づいた。それは、


「20年後のサクラさんがどこかにいるのでは?」ということだった。


そう思ったときだった。サキさんが夕食を運んできたのは。


「リョウ君。お・ま・た・せ!これが20年前の患者さんのカルテよ。」


そういって、夕食のトレイの横にひとつのファイルを置いた。やけに厚みがない。


「え?カルテってコレだけですか?やけに少なくないですか?」


「残っているのはそれだけ。他は転院先に送ったり、医局を移したときに倉庫に送られたりしたみたい。倉庫は鍵がかかっていて許可がないと開けられないから、とりあえず持ってこられるものを探したらね。」


「ありがとうございます。では、さっそく・・・」


「ちょっと待った。」


「はい?」


「さて、話してもらいましょうか?昨日の夜。何があったのかを・・・」


「うっ。それは、その。」


「いいから教えなさい!さもないと寝ている隙に下の毛そっちゃうわよ。」


目が据わっている。本気だ・・・


「わかりました。でも、約束してもらえませんか。誰にも言わないって。」


「話の内容によるわね。」


「え~。」


「いいから話なさい。お姉さんは忙しいのよ。」


「わ、わかりました。話せばいいんでしょ。話せば。」


そして俺は、サキさんに昨日の夜に遭った出来事を話した。


「へ~。サクラちゃんねぇ。しかも、20年前に実在するかもと。」


「はい。で、サキさんにお願いしたしだいで。」


「それじゃあ。早速探してみますか。」


厚みが薄いとは言え、一年分の患者のカルテだ。二人で手分けして探してみる事。5分。意外と早く見つかった。


「これね。どれどれ・・・」


横から除いてみるが、外国語で書かれているので俺には名前以外は解らない・・・


「あれ?この子。退院した記録がないわね。」


「えっ?それって・・・」


「安心して、死亡した訳じゃないから。それならそうと記録されるはずだから。おかしいわね?転院したとも書かれてないし・・・」


「それじゃあ。住所はわかります?もしかしたら、昔の住所のままかもしれないし。」


「そうね。あれ?住所も書かれてないわね。どういうことかしら?」


サキさんはしばらくカルテを調べていたが、住所も退院したかも分からずじまいだった。


「仕方ないわね。何処か別の場所にまぎれちゃったのかもしれないわね。なにせ20年前のものだから。」


「そうですか。それじゃあ、病名は何です?」


「それは書かれているわ。え~と、成長期における偶発的白血球障害?何これ?え~と、原因不明?」


「白血球?それって白血病の事?」


「ううん。違うわね。このカルテによると白血球の数が不規則に増減するそうよ。」


「不治の病とか?」


「う~ん。どうかしらね?ああ。書いてあるわね。このカルテによると命の危険はないけれど、今まで見たことない症例だからしばらく様子をみることしたそうよ。」


「それじゃあ。サクラさんは今も生きているってことですね?」


「そういうことになるかな。他の病気や事故で亡くなっていなければね。」


「そっかぁ。生きているんだ。幽霊じゃないんだ・・・」


「でも、不思議な現象ね。うまくいけば歴史が変えられたりして。」


「良かったぁ。生きているんだ・・・」


「それじゃあ。このカルテ、持って行くわねって、聞いてないか。」


俺が気付かないうちにサキさんは部屋を出て行き、俺はすっかり冷めてしまった夕食を食べながら、なぜか嬉しい気持ちだった。


そして、気が付くと消灯時間になっていた。


どういう風に窓に映し出されるのかをジッと見つめていると、メモが現れた。いや、正確には映し出されたのか?


「ごめんなさい。しばらく会えません。サクラ」


メモにはそれだけ書かれていた。


えっ?どういうことだ?窓に近づきサクラさんの側のベッドを見るが誰もいない。何かあったのか?でも、サキさんが死んでないって・・・


やっぱり、見つからなかったカルテに本当は病死したことが書かれているのでは・・・


俺は不安な気持ちになりながらもサクラさんと同じようにメモを書いて窓に貼り付けた。


「こっちで、看護士のサキさんに頼んで探してもらい、サクラさんのカルテをみつけました。すみません。でも、カルテには退院したと書いてありました。はやく伝えたくて。リョウ」


俺はもうサクラさんと会えなくなるかもしれない。初めて会えないことがこんなにも辛い事だと経験した。


人に話したら笑われるかもしれない。たった一度の出会いでこんなにも嬉しくなったり、不安になったりしている俺を。



次の日の朝、メモを剥がした。考えてみると、俺にしては20年前の過去でも、向こうからすると20年先。つまり、未来だ。


未来を知る。


一見よい事かもしれないが、考えてみると怖いことだということに気付く。特に原因不明の病で入院しているサクラさんにとっては。


俺がいくら「退院した」といっても、ただ不安になるだけで素直に喜べないだろう。


そして、あっという間に時は過ぎ、消灯時間になる。


窓を見ると、メモが無くなっていたがサクラさんは戻ってきていない。メモは誰かが剥がしてしまったのだろうか?


サクラさんはそれから3日間、姿を見せなかった・・・


心配のあまり食も細くなってしまった俺は気分転換にとサキさんに連れられて病院の中庭に出た。


「サクラさん。まだ、病室に戻ってきてないの?」


「はい・・・」


「でも、戻ってきた時。あなたのその顔見たらビックリするでしょうね。」


「えっ?」


「ひどい顔しているわよ。目の下にクマできているし、そんな顔じゃあ。サクラちゃんがどう思うかしらね?」


「そ、そんなにひどいですか?」


「ええ。百年の恋も冷めるわね。その顔じゃあ。」


「・・・」


「君が元気を分けてあげれば、きっとサクラちゃんは病気に負けないと思うけどなぁ。」


「・・・」


「病人ってね。長く入院していると、不安や寂しさで少しずつ元気が無くなっていってしまうの。でも、お見舞いに来る家族や友達から元気を分けてもらうと、がんばろうって気持ちになるの。病気に負けられない。次に家族や友達が来たときには笑顔を見せてあげよう。ってね。」


「・・・」


「リョウ君はサクラちゃんに一目惚れしたのよね?それも初恋。」


「えっ!ち、違うよ・・・」


「ふっふっふっ。やっぱり。」


「やっぱりじゃなくて。」


ぽんっと、俺の肩を叩いて意味深な笑顔で去っていくサキさん。


「元気を分けるか・・・」


たしかに、ただの骨折で入院している俺がサクラさんにできることはそれくらいだろう。そう思い、部屋に戻ろうとした。その時、


「えっ?サクラさん?」


一瞬、20年前の時代にいるはず少女の姿を見たような気がして振り向くが、その姿は無い。


「まさか・・・ね。走っていたみたいだし。」


とうとう幻覚を見る様になってしまった俺は夜に備えて寝る事にした。


そして、その日の消灯時間がきた。


今日こそは帰ってきている事を願いながら恐る恐る窓を見る。


「ごめんなさい。長い事留守にして。」


そう書いたノートを持ったサクラさんがそこにいた。


「いや。でも、大丈夫?」


と、慌ててノートに書いて窓に押し付ける。


「うん。もう大丈夫!」


そう書いたノートを見せた後、元気だよと体で表す。


「ほんと。元気そうだ。」


俺は笑いながらそうノートに書く。


「それで、今日は何話そうか?」


「そうだね。何か聞きたい事はある?」


そうして、あの芸能人が結婚したとか、あのアイドルの子供がデビューしたとか、そんなことをやり取りしていると、サクラさんが、


「やっぱり。そっちは20年後なんだね・・・」


「うん。そうみたいだ。」


「ねえ。私の20年後はどうなっているかな?」


「う~ん。どうしているんだろうね?こっちに35才のサクラさんがいるんだろうけど。」


「ん?サクラさんってなによ!同い年でしょ!」


「でも、こっちでは35才だし」


「そうかぁ。そっちじゃ、私は年上なんだよね。」


「うん。」


「でもさ、今の私は15才であなたと同い年なんだから、『さん』はやめてよね。」


「わかった。じゃあ、俺も君はいらないから。」


「名前なんだっけ?」


ずっこける俺。


「リョウです。リョウ。」


そんな感じでその日は楽しく過ごすことが出来たが、次の日寝不足でサキさんに叩き起こされる事となった。




昼は夜のために寝て、夜中サクラと話。朝、サキさんに叩き起こされるという日々が続き、あっという間に俺の退院の日が近づいた。




「もうすぐ退院だね。おめでとう。」


「うん。そうだね。」


「どうしたの?あんまり嬉しそうじゃないけど?」


「だって、君に会えなくなるし・・・」


「ありがとう。ウソでも嬉しいよ。」


「ウソじゃないよ。できれば、君が退院するまでここに居たいよ。」


俺がそう書いて窓にノートを押し付けると、サクラは泣き出した。そして、


「ありがとう」


とだけ書いて見せる。


このまま、退院したら後悔するなぁ。そう思った俺は、


「俺。君の事が好きだ。


出会った時から好きになっていた。実際に会えるのは君からすると20年後かもしれない。


でも、俺には今だから。今の君になら会いに行ける。


20年後の君からするとガキで相手にならないかもしれないけど。


君はもう結婚しているかもしれないけど・・・ 


会ってくれない?」


思い切ってそう書いた。しばらく、その文を読むサクラ。そして、また泣き出す。泣きながらノートに鉛筆を走らせる。


が、その時、朝日が昇り、サクラの姿が薄れていく。


結局、その日は返事をもらわないまま夜が明けてしまった。




「おはよ~。恋する少年ッ!検温の時間よ~」


朝からハイテンションなサキさんが病室に入ってきた。


「どうしたの?テンション高いですけど。」


「ふふ~ん。私にも春が来たのさ。夏なのにっ!」


「ソレハヨカッタデスネ。」


棒読みで返事をした俺にお構いなくサキさんは暴走する。


「とうとう。坂本先生に告白されたわ。コレ見てコレッ!」


と、窓の方を見ていた俺の頭をグイッと自分のほうに向ける。


「あたたたっ!」


俺が痛がるのを無視し、薬指にはまった指輪を自慢げに見せる。


「婚約指輪よ。いいでしょ~。」


はぁ。俺はそれどころじゃないんだけどなぁ・・・


散々のろけた挙句にとっと仕事を済ませて次の犠牲者のところへ向かうサキさん。


「婚約指輪ねぇ・・・」


あそこまで喜ぶもんなのだろうか?そう思いながら、思わず自分の貯金額を思い出し、到底足りないだろうなと、なぜか落ち込む。


返事ももらってないのに。


ひょっとしたら、ごめんなさいとか言われる可能性もあるわけで。


まあ、20も下のガキに会うわけないよなぁ。


今のサクラにとって俺はただの思い出の中の人。ひょっとすると完全に忘れられているかもしれないし、覚えていたら俺の入院中に現れてもおかしくないよな?


と、弱気になって行く俺。


そんなこんなで、俺にとっての勝負の結果が迫る。


消灯時間になり、いつも通りに窓の前で待つ。


が、なぜか窓には俺の姿が映っている。


「どういうことだ?」


思わず立ち上がり窓を確かめる。が、やはり窓には俺の姿が映っている。いつもならば、俺の姿は映らないはず・・・


「まさか。時間切れなのか?」


始まりも突然だったけど、終わりも突然だった。しかも、最悪のタイミングで・・・


「せめて、あと一日待ってくれよ・・・」


サクラの返事は聞けずじまいだった。


だけど、これで良かったのかもしれない。20年間も俺のことを忘れずに待っているはずもないし、待っていたとしても今の俺には何も出来ないだろう。


だけど、サクラはあの時何を書いたのだろう。


何かが抜け落ちてしまったようにベッドに座り込む。その時、


「コン。コン。」


と、誰かがドアをノックした。


サキさんかな?何かあったのかな?


「はい。」


ドアが開いた先にはサクラがいた。


「えっ!?サクラ?」


20年前のままの姿でなぜかこの部屋のドアの前にいるサクラ。


思わず駆け寄る。


「どうして?どういうこと?」


間違いない。そこには20年前のままの窓越しに見たサクラが居た。


「あ、あの。リョウさんですか?」


「えっ?」


どうも様子がおかしい。というか、よく考えてみたら20年前のままでいるなんてありえないよな。


でも、窓に20年前が映し出されるようなありえないことがすでに起こっているし・・・


そう悩んでいると。


「あの、私。カエデといいます。母に頼まれて・・・」


「それじゃあ、サクラの娘?」


「は、はい。」


似ているはずだ。娘がいるのか・・・


「ということは。サクラも居るの?」


「い、いえ。母は今朝、息を引き取りました。」


「えっ?」


「母は私を産んだ後、ずっと昏睡状態で・・・」


カエデちゃん。と、いっても聞いたら同い年らしいが、彼女を産むと同時にサクラは昏睡状態のまま15年眠り続け・・・

今朝、息を引き取ったそうだ。


で、母親と話もしたことのない彼女がなぜ俺の事を知っていて、母に頼まれたと言ったのかというと、母親の部屋で日記と俺とのやり取りに使っていたノートを見つけたらしい。


そして日記には、


「もしも、これを誰かが読む事があればノートを彼に渡してください。」


と、書かれていたそうだ。


そして、そのノートの最後のメッセージを見た彼女は母の変わりに俺にそれを伝えに来ずにはいられなかったそうだ。


彼女から渡されたサクラのノートにはこう、書かれていた。


「私も会いたい。20年後にあなたに。私はおばさんになっているかもしれないけど、それでも私はあなたに会いたい。」


俺は泣いた。嬉しくて、悲しくて、悔しくて、会いたくて・・・





退院の日。ギブスを外して開放感に浸っていた俺にカエデちゃんが来てくれた。


「リョウさん。退院おめでとうございます。」


「あら、カエデちゃん。えっ?なに?リョウ君と知り合い?」


「へっ?というか、サキさんカエデちゃん知っているの?」


なぜか、サキさんとも顔見知りだった彼女はこの病院の院長の娘で、サクラは20年前のあの後に無事に退院して今の院長に出会い、結婚して院長は婿養子になったそうだ。つまり、サクラのカルテに住所が書かれていなかったのは前の院長の娘だったからだそうだ。


というか、サキさんはサクラの名前を見て気付かなかったってどうなの?と、聞いたら笑ってごまかされた。


「これ、退院祝いです。」


そう言って、カエデちゃんは日記を渡してきた。


「これって、サクラの?」


「うん。お父さんに見せたらかわいそうだから。」


少し複雑な思いで受け取った。


「リョウさんって私と同じ高校なんですね。」


「えっ?そうなの?」


「友達になってくれませんか?母の事、聞かせてください。」


終わり

友達に読ませたら、ラストが悲しいという指摘を受けたので、似た感じの設定で書き直す予定です。今度の主人公は筆者と同じ歳になりそうです。期待しないで、待たないでください・・・

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