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スペーストラック’ん-1

 天京某所での食事の後、俺はレンタルのスクーターを借りてマキを送ることにした。

「うまかったよー」

 と、後ろの席でご満悦のマキである。

「イチゴって、地球じゃ普通の果物だったんだって」

「なんだ、地球に行ったとき買ってくればよかった」

「行ったことあるの!?」

 あると言えばある。

「艦長研修のときに、近くを通っただけだけどな。どうやっても上陸許可が下りなくて、仕方なく遠巻きに眺めて終わっちまったよ」

「そっか、それじゃしょうがないよね」

 そう、しょうがない。

 教科書にも載ってるが、かつて大災害だか大公害があって、誰も住めなくなったとか。

「せっかく行ったんだから、どうにかして上陸したかったね。宇宙からじゃ、分厚い雲に覆われてて、地上なんてみえやしなかったよ」

「ふーん。大災害の前は、青くてとっても綺麗だったんだけどね」

 マキが見てきたように言う「青い地球」なんてのは、写真の資料でしか見ることができない、らしい。

 ま、教科書には綺麗に戻すプロジェクトは順調に進んでるって書いてあったから、そのうち普通に上陸できるんだろう。

「そのうち、ね。あ、あの角で止めて」

 あの角……ああ、あれか。目立つ交差点が少し先に見える。

「ほら、ここでいいか」

 俺は街角でスクーターを停めると、後ろに乗せたちびテレパスを降ろした。

「ちびゆーな」

「言ってねえし」

「あはっ、そうだね。今日はごっそーさん、桑さん」

「ああ、よかったな」

「またねー」

 ちびテレパスは、笑いながら走り去り、小ぢんまりとした電気屋に入って行った。

 ――ちびじゃない、マキだぞ?

 とんできた音のない声。

 森田マキはちびだが、エース級の遠距離型テレパスなのだ。

 さて、と。

 マキに超ド級の高級フルーツセットなんぞを食わせたおかげでカネがない。

 わがフネ、KKに戻る前に、実家に押しかけて飯をたかってくるとしようか。


 てなわけで俺は、桑原宗助二十二歳。

 地球同盟宇宙軍の中佐にして艦長。

 所属してる地球同盟ってのは、銀河系はオリオン椀の片隅にあるささやかな星間国家だ。その昔、俺たち人類が住んでいた地球っていう惑星に由来する。

 そんな小国の士官である俺だが、ここ三日ほど非番だった。

 たまたま停泊しているのが実家のある惑星「天京」軌道上とあり、だらっと上陸して、今日からまた仕事ってことで自前の小型艇を飛ばして艦に戻ってきたとこさ。

 ふむ。やはり、外から眺める我がKKは、なかなかセクシーだ。

 ふんわり流線型を描く巡洋艦設計の前半部、そして一段幅広でやや末広がりにのびやかな後半部、でもって接続部がきゅっとくびれている。

 まるで、ロングドレスのレディのようじゃないか。

 あのガキなくてマキが何着てもこうはならんだろうな。顔だけはなかなかのものなのだが……いやいやいや。

 でだ、俺はそのレディのスネあたりに小型艇を降ろすと、ゆっくりと膝のあたりにあるハッチから中に移動した。

 格納庫はというと、休み前には余分に積んであった鉄やら銅やらを降ろしたおかげで広々としている。今日中には、休暇を取らせておいた艦載機部隊が戻ってきてまた手狭になるわけだが、それは正常な状態というわけで歓迎するところさ。

 

 戻ってすぐに自室で身支度。自室があるなんてのは、艦長の特権でもなく、でかいフネに乗員が百人ちょっとなので、全員下手なアパートよりましな部屋があてがわれているわけだ。これでも、母艦機能がある分人が多めのフネなのだが。

 その母艦機能の本来の役割である、艦載機の収容がぼちぼちと始まっている。

 とはいえ搭載する数はせいぜい二十と少ない。任務が多様すぎるのと、艦載機による大攻撃部隊なんて必要としないからだ。

「『乱風』艦上戦闘機、一号から三号機、間もなく収容」

 短いブザーと共に、ブリッジのメインスクリーンに文字が現れ、ついで接近する機体が映された。

 見ると、後方の空母部分に三機の単座の『乱風』戦闘機が降り立つところだった。型落ちだがなかなか融通の利く戦闘機で、その一番機にはKKの飛行隊長が乗っている。

 さて、迎えに行こう。

 俺が格納庫に出ると、ちょうどパイロットたちが下りてくるところだった。男二人に女一人。みな若く、体格もしっかりしている。

「艦長、ただいま帰りました」

 そのうちのひとり、女子隊員が前に出てきた。

「ご苦労、つぐみちゃん」

「セクハラはおやめください」

 隊長の清水つぐみ中尉である。

「いいじゃないか。KK一番の美女なんだから」

 鍛え上げられ引き締まったナイスバディ、凛々しい唇、そして短めにカットされたサラサラの銀髪。素晴らしいじゃないか。「どうして、わたしが美女だってわかるんですか? 顔も見せてないのに」

 実はつぐみちゃん、常に顔の七割を大きなゴーグルが覆っているのだ。したがって、素顔は口以外誰も見たことがない。だが。

「まちがいなく美女だと信じている」

「どうせ、胸とお尻しか見てないんでしょ?」

 がしっ!

 いきなり、上司とかへったくれもなく胸ぐらをつかんできた。

「く、苦しいじゃないか」

 つぐみちゃんの背は高く、つかまれると足が浮く。かなり浮く。

「やっぱりそうね」

 つかんだまま、不気味な笑みを浮かべる。

 ――ばればれ。

 短い思念波が脳に飛んできた。つい忘れがちだが、つぐみちゃんもテレパスなのだ。接触しないと使えないほど微弱だが。

「セクハラは認めるから、放してはくれんか」

「ふーんだ!」

 つぐみちゃんは、顔の唯一見えてるパーツである口をとがらせて、俺を放り出した。


 さて、本題だ。仕事だ。

 今度の任務は、物資搬送となっている。

 このKKは補給艦でもなんでもないのだが、大きめの積載力と高速をかわれ、取り急ぎの搬送任務を受けることは多い。

 持っていくものは、先日調達してきた転送機モドキ、それに水を二万トンばかり。水二万トンというとかなりの量かと思うが、十八メートルごとに区切った艦内のブロックを四つ使うだけのことだ。全長四○○メートルを誇るKKにとり、さして場所取りというわけでもない。空母部分の艦尾ブロックを一部使うだけさ。もっとも、艦質量が十万トンそこそこのところに載せるので、少々、いやかなり重たいってことになる。

 まあ、普段から艦内用と災害緊急物資で一万トン近く積んでるから、そんなもんといえばそんなもんではある。

 俺は艦を発信させると、その水を調達しに、氷だらけの第八惑星に向かった。そこは、この天京星の水調達先でもあり、それなりの設備がそろっている。既に水は液体の状態で用意されており、搭載もすぐ終わりそうだ。

 それと同時に、持ってきた転送機のうち半分の十機ばかりを研究施設に預けるため、別の特務艦「竹三号」に移した。物が物だけに目立つと困るので、こんな星系の隅っこで載せ替えだ。

 半日もすると、水の積み込みと転送機の載せ替えが終わり、先に出る「竹三号」のメザシみたいな姿を見送った。あれはあれで、駆逐艦三隻の余りをつないだサンコイチで、成り立ちはKKと似たようなもんらしい。

 でだ。

 行先ってのが、「森田電気・重力研究所」だ。

 それがまた厄介な場所にある。

 ここから百七十光年ほど離れたところの、ほどほどに大きなブラックホールの周回軌道上なのだ。そんな宙域だから重力傾斜がきつく、かなり離れた、だいたい三日ぐらいかかるところまでしかワープで行けないのだ。

 当然、ゴミやらガスやら小天体やらが渦を巻いて飛び交っており、そいつらをうまく避けながらでないと、研究所にたどり着けない。

 それだけならまだいい。ただ飛んでくるものを避けるだけだから。

 そのゴミやら小天体やらにまぎれて、武装集団がうろついているという。武装集団のほとんどはナブクロレのはみ出し者という厄介さだ。

 あの後少し調べたのだが、生き物としてのナブロクレは、哺乳類でいう群れを作る肉食獣の進化系らしい。こっちからみて冷血クールに見えるのは、群れを作る肉食獣にありがちな、より強い力には従うという上下関係ガチガチな価値観なのだろう。

 より強い力、ってのは、要は銀河連邦の本体のことだろうな。地球同盟も、連邦本体に逆らったらどうなるか分かったもんじゃない・

 だが当然、統制がとれた群れというべきナブロクレの社会から放り出されたはみ出し物もいるわけだ。そうなっちまうと、飢えた狼どもに等しいんだろうな。、

 で、自分の身は自分で守るべしとご指名があったわけさ。

 てなわけで、改めて言う。

 今回、KKは大きめの積載力と、高速をかわれたわけだ。ついでに、それなりの戦闘能力もある。要は、それだけ危険なところを突っ切り、届ける仕事なのだ。


 準備が終わると、俺はKKを安全な場所まで移動し、通常のワープの手順で複素空間へダイブさせた。当然のことながら星空は消え、言葉では言い表せないカオスが窓の外に広がる。これで艦や中の人がなんともないんだから、不思議なもんだ。

 しばらくして通常空間にフェードして戻ると、一応星空が戻った。一応っていうのは、あれだ。チリやガス、重力の歪で、これもまた普通の景色じゃないということだ。

「時空解析班、ちょっと頼む」

 おかげさんで研究所の位置特定がすぐにできず、俺は専門の部署に座標解析を命じた。

 おや?

 景色が少し動いている。錯覚じゃないようだ。だとすると、重力かガスで流されてることになる。この辺は、何度かここに来たことはあるので折込済みだ。

「斥重力プロペラ展開。動力接続用意」

 と、俺は言葉にしながら、コンソールにコマンドをぶちこんだ。すぐに艦のシステムが反応して、斥重力プロペラを展開し始める。

 見た目的には、艦尾両端部分からアームが伸びて、その先に巨大プロペラの傘がするすると開いていく感じだ。その表面には、単純にいうと遠心力を斥力に変換する物が張り付けられていて、くるくる回すと前進できるという寸法だ。

「微速前進」

 ペラがゆっくり回り、艦がじわじわと加速をはじめる。減速するときは、ペラを裏返しにしてやればいい。

「重力研究所の座標が特定できました」

 ちょうどそこに、オペレータがデータの入ったメモリカードを持って現れた。

 俺は「ご苦労」と短く言ってそれを受け取ると、データをもとに舵を切った。KKはするすると加速しながら、ブラックホールの重力測地線にそって目的の基地へと進み始めた。

 目標、森田電気・重力研究所。

 ……森田電気? なにか引っかかるな。

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