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パラドックス-2

一休みして、こちらの材料を台車に載せて実験場に戻った。

だが少し早かったらしく、ナブロクレが三名ほど次の準備をしていた。

「もうすこしかかる」

 と、翻訳機。もとい、ナブロクレのひとりが言った。

「いいよ、俺らは少し待ってるから。そういやさ――」

 と、雑談を試してみる。

「なにか?」

 乗ってきた。続けてみよう。

「その転送機は、いつごろから使われてるんですかね」

「いつ? 記録がある限り、我らが宇宙に出る少し前だ」

 それって、何年前だか。ま、聞いても単位が合わないだろうけど。

 などと思っていたら、別のナブロクレが付け加えた。

「転送機が、我らを銀河連邦に引き合わせた。おかげで我らはここに生きている。時間にするとdrfgtyふj」

 上手く変換できない。

 が、古株のナブロクレが宇宙に出てくる前ということは、相当昔なんだろうな。

「用意はできた。客人はこちらへ」

 そんでもって、実演再開。

 今度は、台車に用意してきたこっちサイドの物を、順番に転送してもらった。

 工具や簡単な機械、精密機器やら電子機器などを試して、動作確認をしていく。どいつもこいつも、問題なく動くので実験成功だ。

 続いて、食い物を試してみる。

「あ、生リンゴ!」

「まて、これは実験用だ。うまく行ったら食っていいから」

 横取りしようとするマキをかわし、実験にかける。結果は、見た感じ成功だ。

「いただきまーす」

 で、取り出すなり即座に横取りされた。

 がしがし食ってるし、とりあえず問題なかろう。こんなんで貴重なエース級テレパスに何かあったら、クビじゃすまされないような気がするが。

「美味いリンゴですな、これ」

「そらよかった」

言葉が偉そうになってるが。

「じゃあ、こいつで最後だ」

 最後は動物実験。荷物の中から大きめの籠を取り、中の少々肥えたモルモットを取り出した。

「ん? そんなのもあったんだ。かわいいじゃん……です。モ助、モ助っ」

「適当に名前付けるなよ」

 マキがリンゴ片手に、わたわたするモルモットのモ助をなで繰り回す。おかげで余計にわたわたするのを取り押さえ、ナブロクレに手渡した。が、やっぱり逃げた。

「こっちおいで。しょうがないなあ、です」

ところが、すかさずマキが逃げたモ助に籠を持って声をかけた。モ助はすぐに立ち止まり、のそのそと歩いて戻るとマキが抱えた籠の中に入って丸くなってしまった。

「桑さ……桑原艦長。この子、怖がってます」

「そらあ、怖がるだろう」

 そんなもの気にしてたら、動物実験できないっての。

 ――わかってるよ。

「ほら、やり直した。籠から動物出したら、逃げるに決まってるです」

 そりゃそうだな。だが、さっきから言葉が変だ。

 さておき、俺は気を取り直して、モ助を籠ごとナブロクレに渡した。受け取ったナブロクレが、「気を付けよう」と言いながら、転送器に籠ごとセットする。

 そして作動。

毎度同じの「フォン!」という音とともに、モルモット入り籠が転送された。

「えっ? うそ……」

 ぼとり。見ると、青ざめたマキがリンゴを手から落としていた。

「おい、大丈夫か」

「あ、うん、何とか。モ助……ごめんな」

 どういうことだ。なんのことだ。

「後で話すから。今日はここらで、おしまい……」

 ――あばばばばばば……

 ただならぬ雰囲気と、意味不明な思念波がマキから飛んできている。ここは、荷物をまとめて撤収するのが正解だろう。危険信号と見るべき。

「ええと、本日はこれで予定の分は終了しました。あとは、本部に持って帰り、検討したいと思います」

 まずは、撤収だ。とばかりに、俺は無難な言葉で収めようとした。しかし、そこにナブロクレのひとりが食い下がってきた。

「今日は、製品の取引が前提の会合のはず。そして、桑原艦長は、全権委任されてる」

 そういやそうだった。じゃあ、ここはひとつ。

「では手始めに、標準的な転送器を二十セットを引き取ります。引き換えに、鉄千トン、銅三百トン、ニッケル百二十トン、その他レアマテリアルのサンプルを一式つけてお渡ししましょう」

 これで取引用に積んできたブツの、ほんの一部だ。こんなものをたくさん積んできたおかげで、艦載機を降ろしてしまっているわけだが。

「よろしい。では、こちらも用意します」

鉄だの銅だの、俺の感覚では「そこらの岩から勝手に掘れ」と言わんばかりの物ばかりなのだが、ナブロクレの精製技術と比較したとき、やたら純度が高くて価値のある物らしい。

と、いうことで、取引成立。安いもんだ。


ナブロクレ船からの撤収はちょっと骨が折れた。間もなくマキがダウンしてしまい、女の子一名が荷物に追加されてしまったわけで。台車に乗せたが、落としたら厄介だ。

「ごめんよ、桑さん。もう大丈夫だ」

 だいたい二時間後。大荷物の搬入搬出が終わったころ、マキが医務室から戻ってきた。年相応の、子供っぽい笑顔を浮かべてる。苦笑なんだけどさ。

「おう。マキちゃん、いったいどうしたんだ」

 訊いてみる。

「だから、ちゃん付けは……ま、いいか。それより、取り急ぎ頼んでもらいたいことがあってさ」

 マキは窓から外のお椀船を見ながら言った。

「あの機械、できればこれ以上輸入しないでほしいんだ。どうしてもってのなら、生き物を転送できないように改造してからにして」

「ふむ、こいつはぴんぴんしてるようだけどなあ」

 マキに気が付いたのか、ブリッジに持ってきていたモ助が籠の中で、出してくれとばかりに「きゅ!きゅ!」と元気に鳴いてる。

「あー、これはゾンビだから」

 悲しそうな目で、籠を見るマキ。ゾンビにしては元気だし、抱えたら暖かかった。エサもよく食うし、食えば出すだろう。

「うん。『物』としては、何も変わってないんだ。記憶だって、脳が同じだから」

 所詮は神経細胞の塊であり、それが同じなら記憶も確保されるということか。

「そういうこと」

 マキが思考を読んでるのは、想定内。だが、それで問題があるのだろうか。転送が問題なくできていることでは。

「あれは転送機なんかじゃない」

 ひたとマキの言葉が止まり、目があちこち泳がぜながら、言葉を捜し続けた。

「はた目には、証明できないんだけど、ええと……」

 は?

「言葉にできないや。思念波飛ばすから、読み取って」

 キーン、という錯覚の耳鳴りとともに、思考そのものが飛んできた。ただ言葉を飛ばしてくるのとは違い、エネルギーがでかくてちょっと頭が痛い。

 ああなるほど、こいつを言葉にするのは難しい。

 一言でいうならパラドックス。まさしくゾンビ。

 ナブロクレが言う「転送機」の使用前と使用後で、「もの」としての区別はつかない。もちろん、生き物でも同じことで、足の爪から脳味噌の細胞一つに至るまでほぼ同一。

 てことは、考えることや行動、記憶してることも同じだ。

 つまり、第三者から見れば、片方が消えて別のところにそれが現れたら、そっちに転送されたと判断されてしまうわけだ。出てきた本人だって、何を聞いても今まで通りだ。

 しかしそれは、観察者にテレパスがいなければの話だ。

 マキクラスのテレパスからすれば「見てりゃわかる」ってレベルで、オリジナルはきっちりと死んでるらしい。

別のところに湧いて出るのは、よくできた複製だったのだ。

 実験の直後、モルモットのモ助の魂というか残留思念のようなものが、困惑した様子でマキにくっついてきた。それに声をかけて、なんとか宥めていたというのだ。

「ごめんな、モ助。ナブロクレが実演したとき気が付けばよかったんだ」

マキが籠のモ助に声をかけた。

「やつら、思考パターンが少し違うし、もとから思念波のエネルギーちっさいから……。後知恵だけど、いつもあれ使ってたら、ちっさいのがデフォに見えちゃうよな」

 あれを作ったナブロクレには、テレパスがいない。思念波を測定する道具ももってない。俺たち人間も、昔は持ってなかったわけだが。

てぇわけで、あのブツが「転送機」だとして、疑わない。疑いようがない。

まいったね。

「言いたいことはわかった。輸入停止か、リミッタ追加を要請してみる」

「サンキュ」

 マキはモ助を見たまま言った。礼なら俺に言えよ。

「そうそう、桑さん」

 そして少し考えた後、マキはくるりと振り向いた。

「死なずに転送できなくもないかも」

「へえ、それならリミッタは……」

「やっぱないと困る。やれるのは、人類全部あたっても十人といないはずだからさ」

なんだ、実質無理じゃね?

 ――やれても、やりたくないし。

 ひとこと、声なき言葉が届く。マキもそのひとりなのか。

 尋ねたつもりはなかったが、マキは肩をすくめてごまかした。

 やれやれ。

 予想外に負担かけすぎちまったな。これなら、順番待ちをしてでも大人のテレパスをよこさせるんだった。

「へえ、責任感じてるんだ」

「責任者だからな」

「責任とってほしいぞ」

「なら、少しは目上にだな……」

「失礼いたしましたっ!」

 わざとらしい敬礼。さて、どうしてくれようか。


 数日後、俺の非番の日。

 KKを軌道上の基地に係留したまま、自前の小型艇で惑星天京の一番大きなベースに降りた。でもって、昼下がりのレストランへと直行だ。下調べはしたが、実際見るとえらく立派な店なので、おもわず尻込み。

 なぜここに来てるかというと、マキに予定外の苦労を掛けてしまったということで、美味い物でもということになってしまったからだ。それもなぜか、俺のポケットマネーでだ。

 もちろん、経費で落とそうとしたさ。途中で、副長にばれただけだ。

 まあ、それは致し方ない。

「何がしかたないんだ? 桑さん、これすっげー美味いよ」

 ああ、ありがとよ。喜ぶ美少女の笑顔が見られただけで、俺はそれだけで嬉しいさ。

「言ってみるもんだね。まさか、本当にイチゴスペシャルをおごってくれるなんてさ」

 よかったな、うん。

 イチゴといったら、遙か三百光年も彼方にある惑星宇宙宮で、ようやく栽培が軌道に乗り始めた、超ど級の高級フルーツだ。目の前にある、小皿に載った生イチゴ、ミックスジュース、イチゴケーキの三点盛り。それだけで、俺の給料一か月の二割ほどが吹っ飛ぶ値段だ。

 俺は、地球同盟宇宙軍の中佐にして艦長。

 決して安月給じゃないはずなんだが。

 てなわけで、俺は向かいの席で安いコーヒーを飲んでる。食い物は、なしだ。

「なんだよ、自分も美味い物食えばいいのに」

「残念ながら、今日は本気で奮発する気はない」

 わりぃな、小さなテレパスっ娘。

「これから、成長するから」

 へいへい。こんどはちゃんと食事に誘ってやるよ。

五年も経って、“美女”に成長したら、な。

まだ続きます

次章 スペーストラック’ん

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