【3】ー24 え、わざと?
「あ、レヴァっちおかえりー。遅かったね?」
リンの出迎えの言葉に「ただいま」と返して、自室へ戻る。既に日は沈み、夕食の時間になろうかというところだった。
部屋に戻ると一つ、ため息を吐いた。すると、
「……なにかあったか?」
ソファに沈んで読書をしていたハンスにそんなことを言われる。それにレヴァンは苦笑し、「いや別にないよ」と否定しておいた。
「それならいい……さっさと風呂に入れ」
「え、いま?」
「今すぐだ。てめえとフロルだけが入ってないらしい」
ふうん、とそれに頷きながらも、一つ疑問に思う。
「フロルは?」
「知るか」
冷たいハンスに再び苦笑して「わかった」と了解すると、レヴァンは入浴に向かう。なんだかすっきりしたい気分だったので丁度良かった。
自室から廊下をしばらく奥の方へと歩く。すれ違う他の宿泊客に挨拶をしながらたどり着いた先には、数ある浴場のうちの一つ。この宿屋では一団体につき一つの浴場が与えられる。珍しいシステムかと思えば、この都市ではそんなことはないらしい。
レヴァンはそこの引き戸を開けると、中に入って更衣所へ。途中で置いてあるタオルを取りつつ、更衣所に足を踏み入れた。
着替え中のフロルと鉢合わせた。
そのピンクの布切れに包まれた美しい華奢な肢体に見とれてしまう……直前に、レヴァンは踵を返した。
「……じゃなっ!」
「逃がすわけないっっ!」
逃げようとするものの、あえなくレヴァンは魔法の縄で縛られ、目隠しされてしまう。諦め悪く、ぴょんぴょん跳ねまわるその物体を、フロルは容赦なく蹴り転がした。
「ねぇ、わざと? わざとでしょ?」
「ち、違う! ハンスに入れって言われ――」
そこではたと気づく。脳裏にくくっと笑う奴の顔が思い浮かんだ。
「あ、あの野郎……!」
「気づきなよ」
手早くその身体にタオルを巻きつけて身体を隠したフロルが、足に力を入れる。強く、蹴り転がされる。
あぁ~、と言いながら転がっていく様は、なんというか哀れだった。
「……まさか本当に鉢合わせたのか? ふ」
「ふ、じゃねぇよっ!」
殴りかかるレヴァンの拳をハンスが受け止め、ぐぐぐと拮抗する二人。それを呆れた様子で周りが見るのは最早恒例のことだ。
「言っておくけど、ちゃんと確認しなかったレヴァンも悪いんだからね?」
「……それもそうか」
大人しくレヴァンは拳を引く。それに意外そうな顔をしたのはハンスだ。目を丸くしてレヴァンを見ていた。そんなやりとりを断ち切るようにして、フロルが一同の注目を集めた。
「話が終わったところで、明日からの方針を決めたいと思うんだけど」
「方針?」
フロルの提案にリンが疑問顔をする。それを逆に呆れ顔で見て、フロルは言った。
「何のためにこの都市に来たと思ってるの」
「あ、それもそっか」
「…………納得」
どうやらアミナも理解していなかったらしい。フロルはため息をなんとか押しとどめて、再びファミグリア全員とオクタヴィアを見渡した。
「それでどう? どこから調べようとか、ある?」
実際、フロルはここで案が出るとは思っていなかった。カナンあたりが方向性を出すかなとは思っていたものの、具体的な行動はまだだと思っていた。
しかし、予想に反してレヴァンがその手を上げる。
「魔導器」
「れじとす?」
「この都市での武器のこと。それをまず調べよう」
「だが、それは騎士団にしか配給されてない」
レヴァンの強い言い方に、真っ先に反応したのはハンスだった。それにレヴァンはしばらく迷った後で、言い方を考えることにした。
「ハンス、天宙鉄鎖の奴と戦っただろ? 奴らの武器……あれが魔導器だと思うんだ。だから、騎士団以外にも手に入れる方法は必ずあるはずだ」
そんなレヴァンの話を、ハンスは驚きに目を見開いて口を噤む。一同は詳しくはなくとも、なんとなくの理解は出来ているらしい。なるほど、と頷いていた。
「それでどうするつもりだ?」
「とりあえず聞き込み調査」
単純な方針に全員が肩を落とす。しかし、よくよく考えるとそれ以外に手の打ちようがないことに思い至る。今のファミグリアには情報が少なすぎるのだ。
「わかった。皆もそれでいい?」
フロルの確認に反対が無いことを確認すると、アミナが静かに挙手をした。
「…………調査、長期戦?」
「まぁ、そうなるな」
「…………宿泊代、かかる」
その言葉に、全員がハッとした。手持ちの金も無限ではないのだ。
うーん、とフロルが悩む。しばらくした頃、「あ」と声を発したのは、カナンだった。
「そういえば昨日、討伐依頼所という場所を見かけました」
「え、なにそれっ?」
リンが食いつく。さすがは元傭兵だけあって、親近感があるのだろうか。そんなカナンはリンに笑いかけた。
「どうやら被害届を元に作成された依頼を公開するところらしくて。そこの依頼さえこなせば、お金は何とかなると思います」
それを聞いたフロルが手を合わせて、話をまとめて提案する。
「じゃあ、二人ずつのローテーションでその役目を回していこう。ヴィア先生もそれでいいですか」
「構わないよ。動かないと腕も鈍りそうだしね」
肩をすくめるオクタヴィアの賛同も得たところで、大体の方針も決まる。そのまま話は雑談へ……となったところで、レヴァンは時間に目が留まった。それは真夜中前を指していた。
「ってもうこんな時間じゃん。……みんな、もうそろそろ寝よう。明日から調査始めるんだろ?」
えー、と上がるブーイングの中、レヴァンも苦笑。しかし全員もそれが重要なことだと分かっているため、強く渋ることなくそれぞれがその部屋を後にし始める。
「いい夢をね」
「おやすみなさい」
「…………眠い」
「また明日ねーっ」
「身体をしっかり休めたまえよ?」
それぞれの挨拶に返しながら、レヴァンは最後まで見送る。女性陣が部屋に戻ったのを見届けると、レヴァンも部屋に戻る。
「じゃ、明日から頑張ろうな」
「ああ」
そのまま床に就く。
レヴァンは他のみんなに夕方のことを話そうかどうかを迷いつつ、目を閉じる。しかしそんな疑問を飲み込むほどの強力な睡魔が、レヴァンの意識を飲み込んでいったのだった。




