【3】ー22 力の輝石と安請け合いな約束
「わかった。だが俺もまだ調べきれてねぇ。分かったことだけ話す」
ハンスが一転、真剣な表情になって調査結果を話し始めた。
曰く、
この都市の名前はアベリオン。
数多くの衛星都市に囲まれ、守られている。
そして、招魔がいない。
「え、それどういう意味だ?」
レヴァンがそう言うとハンスは顔をしかめ、しかしそれもすぐに戻した。
「そのままだ。そもそもからしてこの都市には招魔という概念すらない」
「概念もない……? それじゃあどうやって冥種に対抗してるの?」
フロルのもっともな疑問に、レヴァンが「そりゃ体術で――」と言いかけたのを「それはレヴァンだけだから」と斬って捨てる。それに苦笑を漏らしたリン。
ハンスはその彼女を指さした。
「特殊な武器を使うか、それかエルシの一族という人種の力を借りているらしい」
「エルシの一族?」
「てめぇのことだよ、リン」
その言葉に「えっ」とリンが目を見開く。周りも少なからず動揺している中で、ハンスは補足の説明を加える。
「獣人という俗称もあるようだが……遺伝的に獣のような身体を顕現させる一族がいるらしい。それも、この都市からほど近い場所にその集落もあるそうだ」
目を見開いたままのリンに唇の端で笑いかけるハンス。
「よかったじゃん、リン!」
レヴァンがそう言うことでようやく話の内容を噛み砕けたのか、リンは次第に笑顔を見せた。暇を見つけてその集落に行ってみようということで話は決まる。
「レヴァン……ゴメンね」
「気にすんな。喜べよ」
羨ましそうにそう言うレヴァンにリンはありがとうと告げた。アミナがリンの頭を撫でている。リンは嬉しそうに笑った。
話がそこで一旦区切れ、ハンスが次の話をしようとする。しかしそのとき、フロルが再び疑問を放った。
「その……エルシの一族? それはわかったけど、特殊な武器ってなに?」
「あぁ……だがその話をする前に、この都市の動力の話をする」
「動力?」
ハンスが一つ頷く。すると横からオクタヴィアが割り込んだ。
「あの水晶か」
「……よく分かったな」
胸を張ってふふんと自慢げにしているオクタヴィア。それに半眼を向けるハンス。そのまま話す気をなくしてしまった彼をカナンが急かし、ハンスは渋々と話し始めた。
「てめぇら、広場の水晶は見たか?」
「もしかしてバカでかいやつ?」
レヴァンが見たのは空からだ。リューちゃんの上から見た時、光で反射した物体が、水晶のようなものだった。
「ああ。あれは『バナムの輝石』といって……中に魔力を含んでいる」
「それって!?」
フロルが声を荒げる。それにオクタヴィアは冷静に後を継いだ。
「シレンティアの魔鉱石と同じだな」
絶句するフロル。オクタヴィアの言葉を聞いた他の者も、驚きに身を固くした。そしてレヴァンの懸念の声。
「シレンティアの魔鉱石と同じなら、冥種を呼び寄せるんじゃないか?」
以前の冥種大侵攻。その強大種は、魔鉱石を何故か狙っていた。
それを知っているのか、ハンスは頷く。
「それは問題ない。シレンティアの魔鉱石ほど内包する魔力は濃くないようだ。それにここの輝石は、人工的に作り出されている」
「なんだって?」
人工的に?
そんな全員の表情に、よくわかっていないんだがな、とハンスは頭をガシガシと掻いた。そして宿屋の窓からある方向を指差す。
その方向には、豪奢な巨大建築物がある。おそらくこの都市最大の建物だろう。シレンティアの塔とは違い、幅広で昔話に出てくる王城のような風貌をした建物だ。
「あそこの名前は『治世庁』だ。そこでこの都市の政治を執り行い、そして輝石を作り出している」
詳しい話を聞くとこうだ。
治世庁が産み出した大きな輝石は貴族が買い、一般人はそのおこぼれを貰う形で、手のひらに収まるサイズの輝石を得ている。
普通それだけでは生活は成り立たないのだが、水道や明かりのための動力は、広場の『バナムの輝石』がすべての平民街の分を供給しているらしい。足りない部分を小さな輝石で動かしているようだ。輝石は中身の有限なポンプのようなものなので、たまに交換されるらしい。
そこまでの話を聞いて、ファミグリアは全員が口を閉ざした。この都市の仕組みにいまだ頭が追いついていないのだ。
ハンスはそれを理解しながらも、早く話を終わらせたいので、口を開く。
「そしてその輝石を使った武器というものも作られていて、その攻撃は魔力を帯びたものになる」
それで冥種に対抗している。
そう言って、ハンスの報告は終了した。
オクタヴィアは言う。
「よし、その武器とやらを手にいれてこようじゃないか」
「それは無理だ」
ハンスがすかさず否定する。不思議そうな顔をするオクタヴィアにハンスは治世庁を再び指さした。
「その武器に必要なほどの魔力を有した輝石はあの場所が管理している。そして武器は、騎士団にしか配給されない」
既に探してはみた、とハンスが言う。得たものはなかったらしい。
「そっか……」
どうしようかと頭を悩ませるレヴァンたちであったが、特に思いつくこともない。
そこで話を切ったのはフロルだった。
「よし! 無事ハンスと合流も出来たことだし、今日はここまでにしとこうよ。それぞれ明日からまた調べるってことで」
フロルが窓の外を見る。そこは既に夕焼け色に染まった空が広がっている。意見を求められたオクタヴィアも「そうだね」と同意したところで、会議は解散となる。
皆が部屋に戻るなか、フロルはレヴァンに近づいた。
「もう、勝手にいなくならないで」
真剣な表情でそう言う彼女に、レヴァンは笑いかけた。
「約束するよ」
それに安心したような顔をすると、フロルも自分の部屋へと戻っていく。
もう夕暮れ時。適当に辺りをぶらつくか、と思い立つ。レヴァンはそのままハンスにそのことを言うとその部屋を出て、外出した。




