【3】ー20 新たな都市
遅くなりました更新です。なかなか時間がとれず、申し訳ないです。それでも頑張りたいと思っています。
「それで、どうするよ?」
「まさか、乗り物の申請を忘れるなんて……」
フロルが、まずったなぁというような表情をしている。問題は初っ端から存在していた。カナンの自動二輪だけではファミグリア全員を乗せられないのだ。
「「「うーん……」」」
全員が揃って唸って考える。近くでそのようすを見ている浄魔士が、顔を引きつらせていた。
「今から申請したらどれくらいかかるの?」
「最短でも、明日の朝でしょうか」
「うーん、それは遅いなぁ」
どうしよっか、とフロルが考えこむ。頭の回転の早い彼女でも、この問題はかなり厳しいようだ。
たりない頭で考えようとするレヴァン。しかしその前にその聴覚が背後の足音を捉えた。今は夜中。不審を感じてバッと振り向く。しかしそこには意外な人物が立っていた。
「ヴィア先生」
「先生はいらない。なんだか年をとった気がするからね。でも愛称で呼んでくれて嬉しいかな。それにしても、面白そうな事を話しているな。混ぜてくれ」
そこにはなにか面白いものでも見つけたような表情をしたオクタヴィアがいた。彼女は守護士用の白と青のジャケットを羽織り、ツインテールを揺らして近づいてくる。
そしてレヴァンたちの前で立ち止まると、その顔をフロルに向けて言った。
「話を聞く限り、乗り物に困っているようだが……問題はそれだけかな?」
「どういう意味ですか?」
「ハンス・パルメルの居場所は分かっているのかい?」
「あ……」
カナンが口を開けて呆けるのを見て、他の四人が「えぇっ!?」と驚く。それにくくっと笑うと、オクタヴィアは胸を張ってその控えめな部分を叩いた。
「意外と抜けたところもあるのだね。私に任せてくれ」
彼女がそう言った直後、レヴァンたちのいる空間がふっと暗くなる。満月の光がなにかに遮られたのだ。
レヴァンたちは空を仰ぐ。そこで信じられないものを見た。
「……あれが……招魔、なの……?」
フロルのつぶやき。それに同調したのか、はたまた声が出ないだけか。
――頭上には巨体を悠々と空に泳がしている竜がいた。全身翠色で夜空に燐く純白の牙。口を開けたままにした一同を見て、可笑しそうに口を隠すと、
「あれが私の招魔リューちゃんだ。彼女に、ハンスにつけている発信機まで運んでもらう」
微妙なネーミングセンスを見せつけて、オクタヴィアは笑った。
◇◆◇◆
「あーあ、行っちゃったね」
「……」
「絶対クリアできない条件を出したはずだったのにな~」
「……」
「エルちゃん、元気出して」
「うるさい。別に落ち込んでなどいない」
庇護者の間。そこでイレーネとエルゼ、そしてヒュームがいた。そこで慰めるような態度のイレーネと微妙な顔をしたヒュームが、エルゼの方を見ていた。
「いや……『エルゼ教官との組手で一本取れ』っていう条件を出したときは、この人鬼畜かと思ったけど……」
「熱意によっては少しレベルを下げようと思ったのよ? でもまさか、本当に取るなんてねぇ……」
しきりに頷くイレーネにエルゼは視線を向けながら、夕方訪れたレヴァンの戦闘を思い出していた。
優れた気勢の読みと圧倒的速度。そして気配を感じ取る性質。それらを組み合わせればどれだけ強力になるかと思うと、ヒュームは今でも体がうずうずしてくるようだった。
「魔力の肉体活性、でしたっけ? あれ、いいな。俺欲しいや」
「んじゃ、魔人にでもなる?」
「……いや、それは勘弁」
おどけるように下がるヒュームに「おとなしくしてなさい」とイレーネは微笑む。そのようすを見てエルゼもようやく立ち直り、他人の心配をする余裕も出てきた。
……そういえば、思わず本気のブローを入れてしまった気がするが、大丈夫だろうか?と。
◇◆◇◆
「っつぅ……!」
鈍く、しかし強烈に痛む左脇腹を押さえ、レヴァンが呻く。その様子に気づいたアミナがその部分をさすった。
「…………大丈夫?」
「なんとか。でも、さすが教官って感じだよ……」
「あははっ、容赦無いよね~」
「フン、鍛錬が足りないのだろう、小僧」
リンがからからと笑い、久々に姿を見せたミグルスが憎まれ口を叩く。それに苦笑で返してから、レヴァンは視線を、前で胡座をかいて竜を操っているオクタヴィアに向けた。
「ヴィア先生。乗せてくれてありがとうございます」
「なに、大したことではない。礼ならリューちゃんに言ってくれたまえよ……先生は付けるなと言っているのにな」
その言葉にレヴァンは足元の分厚い鱗の一つを撫でる。それを感じたのか、リューちゃん(名前を呼ぶのには違和感がある)がくすぐったそうに鳴き声を上げた。
その様子を微笑ましそうに見ていたフロルは一転して真面目な顔をしてオクタヴィアを見た。
「でも、なんで先生が私たちの行き先を知っていたんですか?」
フロルは先程のやり取りを思い出す。そのときに自分たちが都市を出る理由は話していない。それならどこで知ったのか。
オクタヴィアはフロルの予想通りの答えを口にした。
「庇護者の指令だったのだよ。ハンスを追いかけるファミグリアについていき、保護者役をするように、とね」
苦々しそうな顔をするフロル。庇護者とフロルの関係(表向きには隠されている)を知らないオクタヴィアは、それを不思議そうに見ていた。
そのやり取りをなんとはなしに見ていると、ふと、レヴァンは隣の少女の気分が優れないことに気づいた。
「アミナ、大丈夫か?」
「…………気分、悪い」
どうやらリューちゃんの乱暴運転に酔ったようだ。レヴァンはうーんと少し悩むと、
「ちょっとごめん」
そう言って両の手をそれぞれアミナの耳に当てた。
傍から見ると頬に手を添えているかのような状況に、アミナの顔が瞬く間に真っ赤になる。それを見て乗り物酔いがひどいと勘違いしたレヴァンは、早速行動を開始する。
「少し我慢してくれ」
レヴァンがそう言うと同時、その手から極微量の魔力が放出された。
一瞬、顔をしかめるアミナ。しかし、レヴァンが手を離すと、驚いたように目を見開いた。
「…………治って、る?」
「少し体の働きを鈍らせた。時間が経つと元に戻るから心配はしなくていいよ」
平気? と問いかけたレヴァンに首を縦に振って示す。それにレヴァンは微笑む。
そんな二人のやり取りにミグルスが静かに目を向けていた。が、
「小僧、下を見てみろ」
ふと、真剣な声でそんなことを言う。レヴァンは言われるままに眼下の光景を見下ろした。
そして訪れるのは、驚愕。
「なんだ、あれ……?」
その声に反応したのか、他の全員も下を見る。次々と息を呑む音が聞こえた。
眼下に広がっていたのは、横一直線に裂けた巨大なクレバス。まるで世界を隔てるような裂け目に、一同は目を丸くするばかり。
守護士のオクタヴィアも知らないようだ。レヴァンは過ぎ去るそれを見つめ、考えに更けるというらしくもないことをしていた。
「……どうやら、驚くのはまだ早いようだよ」
オクタヴィアの声。それに反応したように前を見たレヴァンたちは絶句することとなる。クレバスの先、荒野のみが広がると思われていたそこに、人工の建造物群があったのだ。そしてそれは、自分たちが暮らす都市と似た雰囲気を持っていた。その都市の中央で、何かが光を反射する。
「まさか、都市、なの……?」
フロルが弱々しく言葉を紡ぐ。アミナはレヴァンの袖を掴み、リンは呆けている。オクタヴィアがその詳細を探ろうと周りを見渡していた。
そしてレヴァンは、
「あれは……」
戦闘時のような鋭い視線で、その都市を睨みつけていた。




