【3】ー15 お仕置きと計画
今回は少し長めです。
「「「おはよう、レヴァン?」」」
「お兄さんも、おかえりなさい?」
朝の教室でフロル、アミナ、リンに同時に挨拶され思わずたじろぐレヴァン。隣ではカナンに詰め寄られたハンスが顔を青ざめさせて怯んでいた。
レヴァンは強行突破を図る。
「や、元気そうで何よりだよ! んじゃ、俺少し職員室に用があるから失礼――」
「「「……出来ると思ってる?」」」
「……すみません」
あえなく失敗。レヴァンは視線に耐え切れず、ゆっくりと膝を折って正座に移行した。ハンスはすでにさせられていた。
「か、カナン……俺は何も」
「嘘です」
「ッッッッッ!?」
ハンスが関節を極められ、泡吹いて倒れる。それを戦々恐々としてレヴァンは見た。そして一つ息を呑む。
「……パフェで許し――」
「「「……」」」
「……お手柔らかに、お願いします」
レヴァンがそっと目を閉じる。
悲鳴すら響かずに、終わった。
「それで? どこに行ってたの?」
代表してフロルがそう問いかけてくる。レヴァンは真面目な顔を女性陣に向けて口を開いた。
「ちょっと商店街の方で終日のバイトを――」
「レヴァンって嘘つくとき右上の方を見るよ」
「え、嘘まじで!?」
「……」
「……」
「……嘘だったんだけどね」
「すみませんでした」
見事なまでに墓穴を掘った。
やばいやばいと言う顔をしているレヴァンを見て、フロルははぁっと深いため息を吐く。そうして他のアミナやリンを見てから、諦めたように言った。
「ま、言いたくないならいいけどね……それよりレヴァンわかってる? 今日、学校のほうでチーム戦だよ」
「…………全員参加」
気になっているだろうに深く追求してこない女子三人。それに申し訳ない気持ちになりながら、レヴァンは有難く乗っからせてもらう。
「チーム戦? 他のチームと?」
「そだよー。もうファミグリアはアタシとフロル、アミナん。それにレヴァっちを加えて組んでることになってる」
リンがその後軽い説明を続ける。どうやら特別講師ヒュームの独断で決まった模擬戦らしい。
レヴァンはうーんと考えるふりをしてから、三人ににっこりと笑いかけた。
「よし、優勝を狙うか!」
「おー!」
返事をしたのはリンだけで、残り二人は頬を朱色に染めていた。「どしたよ?」とレヴァンが尋ねると、フロルとアミナは首を勢い良く横に振る。
それを見てくすくす笑っていたリンに詳しいことを聞こうとすると、なぜかフロルに関節を固められた。いたたた。
「ギブギブ! 聞かないから! もう聞かないから!」
必死の懇願に離してもらう。理不尽の暴力にさらされたレヴァンは、肩で息をしていた。
とりあえず今日の大まかの作戦と役割を聞いて、レヴァンたちの話は終わる。そこでハンスが心配になったため、その視線を教室中に巡らせたが、どこにもいない。
レヴァンは静かに合掌した。
「…………パフェ、食べたい」
「ん、わかった。今日はおごるよ」
アミナの要求を受け入れるレヴァン。それにアミナは一瞬嬉しそうに顔を綻ばせ、すぐに慌ててそれを消した。なんか、可愛らしかった。
そこで、予鈴が鳴る。教官ももうそろそろ来る時間。
「んじゃ、そういうことだから」
フロルが最後に念を押すように確認する。それに「わかってるって」と返すと、レヴァンはその場にバタンと顔を伏せた。そのまま何故か寝息が聞こえてくる。
「……」
その様子を見て、フロルが悲しそうな顔をするが、すぐに優しい顔になって、
「私が……ついてるからね……」
レヴァンの頭をそっと撫でながら、そう言った。
◇◆◇◆
「おい、どうするつもりだ?」
苦々しい声。意識をしたわけでもなくそんな声を出した凛々しい女性。エルゼは庇護者の間の扉を開くやいなや、その部屋の主へと尋ねた。そんな遠慮のない突然の声に、中央の椅子に座るもう一人の女性がビクッと全身で反応してぼんやりとエルゼを見た。
「……まさかとは思うが、寝てたのか」
「ち、違うよ~。幽体離脱して都市を見守ってたんだよ」
「黙れ。職務は全うしろ」
「うぅ。エルちゃんが厳しい……」
泣き真似を開始しようとするその女性イレーネを一睨みして止めさせると、エルゼは口を開いた。
「だから、おまえはどうするつもりだと聞いて――」
と、そこでエルゼは口を噤む。そのままギロリと剣呑な視線を扉の方へと向けると厳しい声を投げかけた。
「入ってこい。盗み聞きをするのは趣味じゃないだろう?」
そんな彼女の言葉に扉が再び開く。そこから入ってきたのは、短い黒髪の飄々とした男だった。同時にこの都市最大の戦力でもある。
「バレてたか」
「あたりまえだ」
短く舌を出して頭を掻くその男に、エルゼは呆れたようなため息を吐いた。
「しかし……どうせ私が気づく以前からいたのだろう? ヒューム」
そんなことを言われたヒュームは、肩をすくめて「さてね」ととぼけてみせた。そしてそれで終わり。立ち去る様子はない。
エルゼは諦めて、ヒュームを交えて話すことにした。
「ハンスが先日カクタスの研究所を訪れた際、『天宙鉄鎖』と思しき手練と交戦したらしい。……捉え損なうどころか、逆に傷を負わされたとか」
「ハンスくんが? 相手はそんなに強いの?」
「それもレヴァンと組んでの二対一で、拮抗していたらしい」
イレーネは信じられないというのが本音だった。
レヴァンもハンスも体術で言えば、都市の最上位クラス。それを二人同時に相手してなお戦えるとは。とんでもない人間だ。
そして、レヴァンは魔力による肉体活性を使う。それにも対抗したというのは、にわかに信じ難いことだった。
そしてそれはヒュームにも驚愕の事だったらしい。
「え、レヴァンが? それって、もう守護士クラスじゃないか?」
意外とレヴァンを高評価していたヒューム。そして、その内面では彼の戦闘欲求が渦を巻いていた。
ひとまずそれは置いておいて、イレーネは更に情報を要求する。それに答えて語られたエルゼの報告に、イレーネは目を見開いた。
「それと理解し難いのだが……なにやら不思議な道具を使ったらしい」
「不思議な道具?」
「なんでも、ただのチャクラムが意思を持ったように空中を飛び回るとか」
そのときのイレーネの表情はただの驚愕か。いささか衝撃を受け過ぎではないかというほどの彼女の様子。それに気づかずに、ヒュームは「へぇ」と口にした。
「そういうのはこの都市の加工師では無理だったり?」
「ああ。報告にあるようなものは無理だろう。せいぜい魔力耐性のある武具というところだ」
エルゼがそう返すと再び「へぇ」と言ってそれきり黙るヒューム。結果訪れた気まずい沈黙を破ったのは、やはりというか教官だった。
「それで、どうする」
その問いかけに、イレーネは我に返って「そうねぇ~」といつものように能天気な表情で考える。しばらくして、彼女は決意した。
「その手練さんの居場所はわかるのよね?」
「ああ、ハンスが小型の発信機を相手につけている。追えるはずだ」
そう、とイレーネは再び考え込み、しかし今度はすぐに顔を上げた。その目をまっすぐエルゼに向ける。
「その相手を追跡してもらいます。拠点の場所をおさえるか、活動範囲だけでも調べさせて。心当たりの人いる?」
「ハンスでいいだろう。そういうことも教え込んでいる」
あっさりと重要なことを決める二人にヒュームは苦笑する。そのままヘラヘラと口を開いた。
「へぇ『戦女神』の弟子か。そりゃ手合わせしてみたいね」
「……その二つ名で呼ぶな」
「へいへい」
エルゼの視線に怯えるような仕草をするヒュームは置いて、話は決定となる。
「それじゃ、悪いけどお願い」
「了解した」
そこでエルゼは踵を返す。それを見送ろうとしたヒュームも掴まれ、一緒にその場を去る。
それを見送ったあと、その場所で、イレーネは、
「……レジトスが、もうここまで」
憂いを帯びた表情で、顔を伏せるのだった。




