【3】-9 不審の見え隠れ
校舎に入ってからは速度を落として、静かに行動する。出遅れたレヴァンもすぐにヒュームに追いつき、彼と共に資料室前までたどり着いた。
既に警報がなってしばらく経っていたため、泥棒は逃げているんじゃ、と思ったレヴァンだったが、違うらしい。
泥棒を感知した部屋の外だけに警報がなり、泥棒自身には自分が気づかれていることを悟らせない、という仕組みをとっているのだそうだ。
「……まだ中にいるっぽいな」
ヒュームの小声にレヴァンが頷く。
「行くぞ」
二人でタイミングを合わせ、扉を慎重かつ大胆に開ける。媒体を問わず雑多においてある資料。その棚が多いせいでパッと見て泥棒は見つけられないが、部屋の奥のほうに気配が一つ。レヴァンは部屋の右隅の方を指さした。
呆れたようなヒュームの視線が「……おまえ気配よむの巧すぎだろ」と言っているような気がしたが、黙殺。足音を響かせないようにレヴァンたちは目標に近づいていった。
棚の陰から陰へと素早く移動し、奥の方へ移動していく。ヒュームとは別に行動し、やがて犯人の姿が視界へと入る。
その犯人は、何やら一つの棚だけをゴソゴソと漁っていた。その棚の項目には「魔力利用」と書いてある。
前方にいるヒュームがアイコンタクト。それに頷いてから、レヴァンは相手の逃げ道を塞ぐような位置で本棚の脇に控えた。
そして、
ヒュームが音が鳴らない限界の初速で犯人との距離を詰める。そのまま手刀を首に打ち下ろす。レヴァンは逃げた相手に追い打ちをかけるために動き始めるが……。
「う……ッ」
「「え?」」
レヴァンとヒュームが同時に呆けた声を出す。目の前で崩れ落ちた犯人は、ヒュームの手刀に気づかないまま気絶していた。
場所は変わって中庭。各教室では座学が行われている時間だが、その場所には教官、ヒュームやその付き人だけでなく、レヴァン、フロル、アミナまでもがいた。
フロルは「私はレヴァンの契約者ですから」と言って教官を説き伏せ、アミナは「……ヒュー兄、お願い」と言って承諾を得ていた。
「……で、だ。貴様、何処の者だ? 魔の狩人、ではなさそうだが」
教官が向ける鋭い視線に、縄で縛られた細身の男が体を竦ませる。その男が、先ほどの犯人だ。
男はしばし怯えたような視線を周りに向けると「ち、違うんだッ」と必死に訴えた。それを教官が視線で促す。彼は顔をどもりながらも「俺は、雇われたんだ!」と言った。
「誰に?」
「て、『天宙鉄鎖』っていう団体だ」
聞いたこともない名前に一同首をひねる。守護士であるヒュームも知らないようで、非公式団体かな、とレヴァンはあたりをつけた。結果として少しずれてそれは当たることになる。
「それは一体何の組織だ。なぜ浄法院の資料室へ忍び込んだ?」
「お、俺だって知らねぇんだ」
がすっ。
「早く言え」
なかなかに鋭いつま先を男の腹部にめり込ませながら、教官は問い詰める。
「が……っ! ほ……ほんとに知らねぇんだって!」
呼吸困難になりかけながらもそう訴える様子に、教官は構えていたその足を楽にする。彼女はサドに違いない。少し口唇が上がっているようにレヴァンは感じた。口に出せば今度は自分が危ないので口にしなかったが。
「そいつらとはどこで会った?」
「都市の西門外だ。俺は狩猟者なんだよ」
食用にできる獣を都市の外で狩り、食肉として卸すことを生業としているらしい。男が言うには、狩りから帰り、門に入ろうとした時にその『天宙鉄鎖』とやらの一員と接触したらしい。
「や、奴らはこの都市の魔力の使い方と魔物についての情報を集めて来いって俺に……」
「膨大な報酬に目が眩んだか」
呆れたような視線の教官にビクつきながらも、その男はまだ何かあったというように「そういえば」と口にした。
「言え」
「わ、わかってる……。その団体のことなんだが――」
すっかり教官の下になってしまった男は、次の瞬間、信じられないことを言った。
「どうやらその『天宙鉄鎖』は都市の外で活動しているらしい」
「……なんだと」
教官が反応。ヒュームも目を見開き、驚いている。同様にレヴァンたちも信じられない様子だった。
都市の外は害獣や冥種がたむろしていて、拠点もよほど頑丈にしておかないと破壊されてしまう。そのためかなり大きな規模の組織でないと、都市から独立して活動するということはできないのだ。
それぐらいしか俺には話さなかった、と男が口を閉ざす。しばしその場に沈黙が降りた後、教官がその男を引きずってその場を後にした。おそらくもうしばらくは取り調べが続くのだろう。
それを見送ると、ヒュームが明るい声を発した。
「よし、悪かったな! こんなことに付きあわせて」
「本当ですよ。レヴァンを危険そうなことに行かせないでください」
「…………安全、第一」
「おいおいモテモテじゃないか、レヴァンくん。とは言っても妹はやらんぞっ!」
「…………ヒュー兄には関係、ない」
そんなことをワイワイと言い合うなか、レヴァンは一人物思いにふけっていた。
「……レヴァン?」
「ん、どうした?」
話は聞いていないくせに返事だけはするレヴァン。それを見て再び話し始めるフロルとアミナ、ヒュームだったが、レヴァンは再び意識を飛ばす。思い出しているのは、犯人の男が最後に調べていた書類の中身だった。その資料の題名は……魔人について、だった。
「『天宙鉄鎖』、か……」
もし、魔人を作り出そうとしているのなら。
レヴァンは密かに決意を固めて、よし、と気合いをいれるのだった。




