老け顔
短編です
小学生の頃、両親が離婚した。よくある、性格の不一致とか、そう言うアレだ。父は、酒が入ると暴れる人だった。母は、良くも悪くも控えめな性格だった。
俺は学校から帰ると、すぐに押し入れに隠れて宿題を済ませ、嵐が過ぎ去るのを待っていた。
離婚すると聞いた時は、やっとこの嵐から解放されるのだと、俺は喜びを感じていた。でもしばらくして、母一人の稼ぎでは、以前のような暮らしはできないことを知った。
俺は高校生になって、バイトを懸命に頑張った。母を楽させたかった。でも学生の内は、割のいい夜の時間は働けない。もどかしい時間をずっと過ごしていた。
その最中で、父には年二回、会わなければいけなかった。離婚した後、親権は母になったけど、父が養育費を払う代わりに、必ず俺と面談する日を設けるようにと、弁護士に直談判したらしい。
今日はその日だ。いつもなら母が一緒に行くんだけど、風邪をひいていて、家から出られないので、俺だけが父に会いに来た。
正直父親に会いたいなんてこれっぽっちも思っちゃいないが、生活の為には、こんなやつからでも金を貰えるだけありがたいというものだ。
「久しぶり、元気だったか?」
酒が入って暴れていた頃の威厳はどこへやら。オドオドビクビクしていて、小さくなってしまった父を見ると、なんだか、悲しい気持ちになる。
母は風邪で寝込んでいる、早く済ませてほしいと伝えると口元を歪めて笑う。俺はこの笑顔が嫌いだった。
「そうか、で、お前、いまどのくらい稼いでいるんだ?」
こいつ、もしかして養育費を渡さないつもりか?それどころか俺のバイト代をせびりに来たんだろうか。浅ましい。本当に尊敬できるところのない男になってしまった。
俺のバイト代を含めても、家は生活がかつかつなんだよと伝えると、目を泳がせて、そうかとだけ言って、父だった男は、封筒に入れた金を俺に渡した。
「もうそろそろ、いいだろ?これで最後に」
ヘラヘラと笑う父に苛立ちを覚えたけど、俺たちの生活のためだ、少しでもお金は欲しい。
父親としての義務は果たせよ。そう言って俺は、席を立った。アイスコーヒー、飲みきってからにすればよかった。
それでもこの金で、とりあえず母に栄養のある物を作ってやれる。最近布団から出ない時間の方が増えたし、寝ていることが多くて、心配だったんだ。
スーパーで栄養があって、でも手軽に食べられそうな食材を集め、帰宅した。
電気もつけないで、母は相変わらず布団の上から動かない。風邪を引いた時に首にネギを巻くと良いと祖母に教えてもらったから、ソレを実践するべく、タオルにネギをくるんで首に巻いてやったんだけど、始めは苦しそうにしていた母も、咳をしなくなって、安心していたんだ。でもそれから母は布団から起きてこない。
父の話をすれば起きてくるかもしれないと思って、今日は会いに行ったけど・・・。やめよう、気持ちが暗くなる。
夕飯の準備を進めていると、チャイムが鳴った。ドアの前には警察がいた。
「こんばんは、えぇっと、この辺で異臭がするって通報を受けて来たんだけど」
異臭?そんなものはしないが。もしかして俺の料理か?確かに俺の料理は大したもんじゃないが、異臭がするようなものは作ってない。
「失礼ですが、ご職業は?」
老け顔とはいえ、高校生に対して職業を聞くなんて、目が腐ってるんじゃないか?
「あ、高校生さん・・・・えっと・・・学生証とか、もしかして運転免許証とかありますか?」
ありますよ。ったく・・・。俺そんなに老け顔かな。急とは言え、警察が来ても母は起きてこない。そんなに体調悪いのかな。
「はい、確認しますね・・・」
早くしてくれよ。・・・なんだよ、何度も見て。
——これ、十年前の物ですよね?——
は?おたくら何言ってんの?




