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トーノブユース  作者: ふなつさん


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第二話⑥

 それから数日が経った。

 文化祭の準備は、少しずつ形になり始めていた。

 朝の教室はいつも通りで、窓から春の光が差し込んでいる。クラスメイトたちはそれぞれ友達と話したり、スマホを見たりしていて、いつもの学校の朝の空気だった。

 私は席に座って、ぼんやり窓の外を見ていた。

 グラウンドでは体育の授業の準備をしているクラスが見える。ボールが転がる音や、生徒の声がかすかに聞こえてきた。

「明日香」

 前の席から綾香が振り返る。

「今日、生徒会あるよね」

「うん」

 私はうなずいた。

「文化祭のやつ」

「だよね」

 綾香は机に腕を乗せながら言う。

「最近ずっと文化祭の話だね」

「そうだね」

 私は小さく笑った。

 出店の配置もだいぶ決まってきたし、体育館のスケジュールもほとんど整理されている。

 文化祭はまだ少し先だけど、学校の中では少しずつ準備の空気が広がり始めていた。

「メール来てるかな」

 綾香がぽつりと言う。

 私は少しだけ考えてから答える。

「どうだろう」

 メモリア・コード。

 文化祭ライブの相談。

 あの日、生徒会から返信を送ってから、さらに一度やり取りがあった。体育館の設備や観客人数についての確認。

 それに対して、生徒会として詳しい情報を送った。

 それからは、まだ連絡は来ていない。

 でも、放課後になるとどうしても少し気になってしまう。

「放課後分かるね」

 綾香が言う。

「うん」

 私はそう答えた。

 授業が終わって、放課後になる。

 私は綾香と一緒に生徒会室へ向かった。

 三階の廊下は、部活に向かう生徒で少し賑やかだった。階段を上がる音や笑い声があちこちから聞こえる。

「今日何やるんだっけ」

 私が聞く。

「体育館のタイムテーブルだったと思う」

 綾香が言う。

「あと出店の最終確認」

「そっか」

 そんな話をしながら、生徒会室の前に着く。

 ドアを開けると、すでに何人かの先輩が来ていた。

「お疲れ様です」

「お疲れー」

 私はカバンを椅子の横に置いて席に座った。

 机の上には文化祭関係の書類が並んでいる。

「今日は体育館のスケジュール詰めるぞ」

 会長の先輩が言う。

「ステージ企画もそろそろ決めたい」

「はい」

 私たちはノートを開いた。

 会議はいつも通り進んでいく。

 体育館の使用時間。

 部活動の発表。

 クラス企画との調整。

 文化祭は二日間あるから、スケジュールを組むのもなかなか大変だった。

 紙をめくる音とペンの音が、生徒会室の中に静かに響いている。

 しばらくして、二年生の先輩がノートパソコンを開いた。

「メール確認しておきます」

 生徒会の共有アドレス。

 学校関係の連絡はそこに届く。

「お願いします」

 会長の先輩が言う。

 私は書類を見ながらメモを書いていた。

 文化祭のステージ企画。

 まだ決まっていない部分もいくつかある。

 そのときだった。

「……あ」

 先輩が小さく声を出した。

 キーボードを打つ手が止まる。

 生徒会室の空気が少しだけ変わった。

「どうしました?」

 会長の先輩が聞く。

 先輩は画面を見たまま言った。

「メール」

「来てます」

「どこから?」

 先輩は画面を見ながら答える。

「メモリア・コード」

 生徒会室が少しざわつく。

「ほんと?」

「公式?」

「差出人は?」

 先輩が画面を指差す。

「Memoria Code Official」

 私は席から少し身を乗り出した。

 間違いない。

「開きますね」

 先輩が言う。

 マウスが動く。

 クリック。

 メールの画面が開いた。

 生徒会室が、少し静かになる。

 先輩が画面を見ながら読み始めた。

「都立春野ヶ丘高校生徒会様」

 都立春野ヶ丘高校とは、私が通っているこの高校だ。

 先輩が続きを読み上げる。

「この度は文化祭ライブの件につきまして、詳細なご説明をいただきありがとうございました――」

 私は画面を見つめていた。

 胸の奥が少し落ち着かない。

 先輩が続きを読む。

「会場設備、日程、観客人数などを確認させていただきました」

 ゆっくりスクロールする。

「メンバーおよびスタッフとも相談した結果――」

 そこで先輩の声が少し止まった。

「……あ」

「どうしました?」

 誰かが聞く。

 先輩は画面を見たまま言った。

「文化祭ライブの出演についてですが」

 生徒会室の空気が静かになる。

 先輩がそのまま読み上げた。

「ぜひ出演させていただければと思います」

 一瞬、誰も声を出さなかった。

 私は椅子に座ったまま、画面を見つめていた。

 メモリア・コード。

 文化祭ライブ。

 出演。

 その言葉が、頭の中でゆっくりつながっていく。

「……ほんとに?」

 二年生の先輩が言う。

 会長の先輩が立ち上がって画面を見る。

「ちょっと見せて」

 メールを読み直す。

 少しして、ゆっくり言った。

「……ほんとだ」

 それを聞いた瞬間、生徒会室が一気にざわついた。

「すごくない?」

「来るってこと?」

「メモリア・コード?」

 いろんな声が飛び交う。

 私はまだ画面を見ていた。

 そこに書かれている一文。

 出演させていただければと思います

 その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。

 サウズ。

 あの歌声。

 メモリア・コードのライブ。

 それが。

 文化祭で。

 私たちの学校で。

「明日香」

 綾香が隣で言った。

「すごいね」

 私は小さくうなずいた。

「……うん」

 それしか言えなかった。

 生徒会室では、先輩たちがメールの続きを確認している。

「日程も問題ないみたいだな」

「音響は持ち込みらしい」

「スタッフも来るって」

 いろんな話が出始める。

 会長の先輩が手を叩いた。

「よし」

 みんながそちらを見る。

「文化祭の目玉イベント」

 先輩は言った。

「メモリア・コードのライブで決定だ」

 その言葉で、生徒会室が一気に沸いた。

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