第二話④
生徒会室の空気が、一瞬止まった。
誰もすぐには声を出さなかった。
「……前向き?」
二年生の先輩が小さく言う。
「今、そう書いてありましたよね」
ノートパソコンの前にいる先輩が、もう一度画面を見直す。
「うん」
先輩はゆっくりうなずいた。
「前向きに検討、って」
私は机の横に立ったまま、画面を見つめていた。
そこに表示されている文章。
メモリア・コードから届いたメール。
現実なのか少し分からない感じがする。
「続き読みますね」
先輩が言う。
みんなが自然と画面の方を見る。
「日程や会場の条件などを確認させていただいたうえで、出演の可否を判断させていただければと思います――」
先輩がそこまで読んで、少し顔を上げた。
「条件確認ってことですね」
会長の先輩が腕を組む。
「なるほど」
さっきまで静かだった生徒会室が、少しだけざわつき始めた。
「ほんとに返事来るとは思わなかった」
「公式からだよね」
「ちゃんとしたメールだ」
私はまだ画面を見ていた。
シンプルな文章だった。
でも、そこに書かれているのは確かにメモリア・コードの名前だった。
「日程とか送ってますよね?」
綾香が言う。
「送ってる」
二年生の先輩がうなずく。
「文化祭の日程と、体育館ステージの話」
「じゃあそれ見て検討してくれてるってことか」
会長の先輩が言う。
私はやっと椅子に座った。
胸の奥が少しだけ落ち着かない。
さっきまで普通に文化祭の書類を見ていたのに、急に現実感が変わった気がする。
「返信って必要ですか?」
先輩が聞く。
「そうだな」
会長の先輩は画面をのぞき込む。
「とりあえず返事はした方がいい」
「了解です」
先輩がキーボードに手を置く。
「どう書きます?」
「確認ありがとうございます、って感じでいい」
「はい」
キーボードの音が静かに響く。
私はノートの上に置いたペンを指で回していた。
メモリア・コード。
サウズ。
あの歌声。
もし本当に学校に来ることになったら。
そんなことを考えてしまう。
「明日香」
隣で綾香が小さく言った。
「うん?」
「さっきから静かだね」
私は少し笑った。
「ちょっとびっくりしてる」
「だよね」
綾香も笑う。
「私もちょっと驚いた」
前の席では、先輩たちがメールの文章を確認していた。
「これでいいですか?」
先輩が画面を見せる。
短い文章だった。
文化祭の詳細。
日程。
体育館の設備。
追加で必要な情報があれば対応します、という内容。
「いいと思う」
会長の先輩がうなずく。
「送ろう」
クリック音が小さく響く。
「送信しました」
先輩が言う。
それで一段落ついたみたいだった。
「さて」
会長の先輩が手を叩く。
「文化祭の作業戻るか」
みんなが席に戻る。
さっきまでの空気が少しずついつもの生徒会室に戻っていく。
書類の整理。
出店の配置。
体育館のスケジュール。
やることは変わらない。
でも私は、ノートに視線を落としながら、さっきのメールのことを少しだけ考えていた。
メモリア・コード。
文化祭。
体育館ライブ。
そんな言葉が、頭の中でゆっくりつながっていく。
「明日香」
綾香が言う。
「帰りコンビニ寄る?」
「いいよ」
私はペンを置いた。
窓の外を見ると、夕方の空が少しずつ色を変えていた。




