第二話②
生徒会室の中は、さっきまでより少しだけ賑やかになっていた。
「でもさ」
二年生の先輩が言う。
「ライブって文化祭の目玉には合ってる気がする」
「確かに」
別の先輩がうなずいた。
「体育館のステージ使えるし」
「人も集まりそう」
机の上に並んだ資料を見ながら、会話が続いていく。
私はノートにメモを取りながら、その話を聞いていた。
ライブ。
学校の体育館で。
それだけでも、なんだか少しわくわくする。
「問題は誰呼ぶかだよな」
誰かが言う。
「有名なとこは難しそう」
「学生バンドとか?」
「それもあり」
いくつか案が出ては、また別の案が出る。
その流れの中で、ふとさっきの話題が戻ってきた。
「さっき出たメモリア・コードって」
先輩が言う。
「連絡先とかあるのかな」
私は思わず顔を上げた。
「公式サイトはありますよ」
別の先輩が言う。
「問い合わせフォームとか」
「たぶんある」
何人かがスマホを取り出す。
「ほんとだ」
画面を見ながら先輩が言った。
「問い合わせページある」
生徒会室の机の上に、ノートパソコンが置かれる。
二年生の先輩が画面を開いた。
「じゃあ確認してみるか」
キーボードを打つ音が響く。
「メモリア・コード……」
検索結果から公式サイトが開かれる。
黒い背景のページ。
狐の面のロゴ。
私はその画面を見た瞬間、少しだけ胸が高鳴った。
何度もスマホで見たことがあるサイトだった。
「問い合わせフォーム、これだ」
先輩が画面を指差す。
入力欄がいくつも並んでいる。
名前。
連絡先。
内容。
「出演依頼とか送れるのかな」
「書いてみるだけ書いてみる?」
そんな声が出る。
会長の先輩が腕を組んで画面を見ていた。
「まあ」
先輩は言う。
「文化祭の企画として相談するのはありかもな」
それを聞いて、二年生の先輩がキーボードに手を置いた。
「じゃあ文章作ります?」
「一回書いてみて」
会長の先輩がうなずく。
キーボードの音が静かな生徒会室に響く。
「えーっと……」
先輩が声に出しながら入力していく。
「○○高校生徒会です」
「文化祭の企画としてライブ出演をご相談したく――」
文章が少しずつ画面に並んでいく。
私はその様子を、少し離れた席から見ていた。
なんだか現実感がない。
メモリア・コード。
私が普段イヤホンで聴いているバンド。
その名前が、今こうして学校の文化祭の話の中に出ている。
「こんな感じでいいですか?」
先輩が振り返る。
画面には丁寧な文章が並んでいた。
文化祭の概要。
学校名。
開催予定日。
ライブ出演の相談。
「いいと思う」
会長の先輩が言う。
「失礼な感じもないし」
「ちゃんとしてますね」
綾香も画面をのぞきながら言った。
先輩が最後の入力を終える。
「送信ボタンこれですね」
マウスカーソルがゆっくり動く。
送信ボタンの上で止まった。
「送ります?」
先輩が聞く。
会長の先輩が軽くうなずく。
「うん」
「一回送ってみよう」
カチッ。
小さなクリック音がした。
それだけで、画面の表示が切り替わる。
送信が完了しました。
その文字が表示されていた。
「送れました」
先輩が言う。
生徒会室の空気は、いつもとそんなに変わらなかった。
誰かが資料をめくり、誰かがペンを回している。
ただ、私はノートを閉じながら、さっきの画面のことを少しだけ考えていた。
メモリア・コード。
狐の面。
サウズの歌声。
そのバンドに、今この学校からメッセージが送られた。
それがなんだか不思議だった。
「今日はこの辺で終わりにするか」
会長の先輩が言う。
「文化祭の他の企画もまた次回まとめよう」
「はい」
椅子が動く音がする。
みんなが立ち上がり始めた。
「帰る?」
綾香が聞く。
「うん」
私はカバンを持つ。
生徒会室を出ると、廊下はもう静かだった。
窓の外は夕方の色になっている。
階段を降りながら、綾香が言った。
「文化祭楽しみだね」
「うん」
私は小さくうなずく。
校門を出たあと、イヤホンを耳につけた。
スマホの再生ボタンを押す。
流れてきたのは、メモリア・コードの曲だった。
サウズの歌声が、静かな帰り道に広がっていく。




