表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トーノブユース  作者: ふなつさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/49

第十三話②

「……やってみる」

そう言った綾香の顔は、

さっきまでより、少しだけ明るかった。

「お、いいじゃん」

軽く言うと、

「でもさー……」

すぐに不安そうな顔に戻る。

「絶対緊張するんだけど」

「それはするでしょ」

思わず笑う。

「私でもするもん」

「でしょ?」

綾香がため息つく。

「なんかさ、話しかけるだけなのにさ」

「めっちゃハードル高い」

「分かる」

うなずく。

好きな人ってだけで、

普通のことが急に難しくなる。

「……じゃあさ」

少し考えてから言う。

「シミュレーションする?」

「……は?」

綾香が一瞬固まる。

「え、なにそれ」

「いや、練習」

ちょっとだけ前のめりになる。

「私が高野くん役やるから」

「無理無理無理」

即否定。

「絶対無理」

「なんで!」

「だって気まずいじゃん!」

「いや、今さらでしょ」

ちょっと笑う。

「むしろ今やっといた方が楽だよ」

「……うーん……」

少し悩む顔。

「ほら、やろ」

軽く手を叩く。

「はい、高野くんです」

姿勢を少しだけ変えて、

それっぽく座る。

「……」

綾香がじっと見る。

「なにその雑な再現」

「いいから!」

ちょっと笑いながら言う。

「はい、話しかけて」

「……えー……」

綾香が明らかに困ってる。

でも、その感じがリアルすぎて、

ちょっと面白い。

「ほら」

「……えっと」

少しだけ視線を泳がせて、

「……あの」

って小さく言う。

「ん?」

それっぽく返す。

「……この前のプリントさ」

ぎこちない。

でも、ちゃんと話しかけてる。

「ここ分かんなくて」

「……どこ?」

自然に返す。

「……ここ」

綾香が適当に指さす。

「……ああ、そこは――」

説明するフリをする。

ちょっとだけ間を置いて、

「……ありがと」

綾香が小さく言う。

そこで、私は普通に戻る。

「はい、終了」

「……はぁ……」

綾香が一気に力抜ける。

「無理すぎ」

「いや、普通にできてたじゃん」

「できてない」

即否定。

「めっちゃ不自然だった」

「最初はそんなもんだって」

肩をすくめる。

「でもさ」

ちょっとだけ真面目に言う。

「今のでも、ちゃんと会話になってたよ」

「……そう?」

「うん」

うなずく。

「最初は“話す”だけでいいと思う」

仲良くなるとか、

距離縮めるとか、

そういうのはそのあと。

「……そっか」

綾香が少しだけ考える顔になる。

「いきなり仲良くなろうとしなくていいってことか」

「そうそう」

「まずは存在認識してもらう」

「それ、言い方」

思わず笑う。

「でもまあ、そういうこと」

綾香も少しだけ笑う。

「……なんかさ」

ぽつりと言う。

「ちょっとだけいけそうな気がしてきた」

その言葉に、

私も嬉しくなる。

「でしょ?」

「うん」

綾香がうなずく。

「明日、やってみる」

「おお」

思わず声が出る。

「早いね」

「勢い大事でしょ」

少しだけ強気な顔。

でも、その裏にちょっと緊張が見える。

「……応援してる」

素直に言う。

「ありがと」

綾香が笑う。

そのあと。

「……てかさ」

急にこっちを見る。

「なに?」

「明日香は順調なの?」

「……え?」

一瞬、止まる。

「いや、千都世と」

さらっと言われる。

「……まあ」

少しだけ視線を逸らす。

「いろいろあったけど」

「だよねー」

綾香が苦笑する。

「ニュースとかやばかったし」

「……うん」

思い出して、少しだけ胸がざわつく。

「でもさ」

綾香が、ちょっとだけ優しい声で言う。

「ちゃんと乗り越えてるじゃん」

「……そうかな」

「そうだよ」

即答。

「普通にすごいと思う」

その言葉に、

少しだけ胸があったかくなる。

「……ありがと」

小さく言う。

「お互い頑張ろ」

綾香が軽く言う。

「……うん」

うなずく。

恋愛の形は違うけど、

同じ“好き”で悩んでる。

それが、なんか少し嬉しかった。

「……寒いし、帰ろっか」

綾香が立ち上がる。

「うん」

私も立ち上がる。

二人で並んで歩き出す。

少し冷たい風。

でも、

心の中は、少しだけあったかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ