第十三話①
「……ねえ、明日香」
昼休み。
いつもみたいに机をくっつけて、お弁当を広げてたとき。
綾香が、ちょっとだけ声のトーンを落として言った。
「……ん?」
顔を上げる。
なんか、いつもと違う。
ちょっとだけ、真面目な顔。
「ちょっとさ」
周りをちらっと見てから、
「あとで、いい?」
小声で。
「……いいけど」
首をかしげる。
「なに?」
って聞こうとしたけど、
「今はいい」
ってすぐに言われた。
「……え、なにそれ」
ちょっと気になる。
「放課後ね」
綾香が、少しだけ笑う。
でも、その笑い方が、
なんかちょっとだけ、いつもと違う。
「……分かった」
うなずく。
気になるけど、
たぶん、ちゃんと話してくれるやつ。
それは分かる。
――放課後。
教室に人が少なくなっていく。
部活に行く人。
帰る人。
だんだん静かになる。
「……行こ」
綾香が、小さく言う。
「うん」
一緒に教室を出る。
廊下を歩いて、
階段を降りて、
人があまりいない場所。
中庭のベンチ。
冬だから、ちょっと寒い。
「……寒くない?」
思わず言うと、
「ちょっと寒いけど、ここがいい」
って綾香が答えた。
その言い方で、
ああ、ちゃんとした話なんだって分かる。
二人で座る。
少しだけ距離が近い。
「……で?」
先に聞く。
綾香は、少しだけ下を向いて、
「……あのさ」
珍しく、言葉を選んでる。
「うん」
待つ。
「……好きな人、できた」
「……え?」
一瞬、頭が止まる。
「……え!?」
思わず大きい声が出る。
「ちょ、声大きい」
「ご、ごめん……」
慌てて口を押さえる。
でも。
びっくりしすぎて、
心臓が変な感じ。
「……ほんとに?」
「ほんとに」
綾香が苦笑する。
「なにその反応」
「だって……!」
言葉が追いつかない。
綾香に、好きな人。
「誰!?」
一気に前のめりになる。
綾香は、ちょっとだけ困った顔をして、
「……同じ学年」
って言った。
「同じクラス?」
「うん」
「え、誰誰!?」
完全にテンション上がる。
さっきまでの重たい空気どこいったのってくらい。
綾香は、少しだけため息ついて、
「……高野蒼史」
って、小さく言った。
「……たかの、そうし……?」
頭の中で名前を探す。
「あ、あの人?」
ちょっと背が高くて、
いつも静かで、
でもなんか目立つ感じの。
「……うん」
綾香がうなずく。
「まじで!?」
また声が大きくなる。
「だから声」
「ごめん!」
でも、抑えきれない。
「え、いつから!?」
「……最近」
ちょっとだけ目を逸らす。
「なんか、気づいたらって感じ」
「えー……!」
なんか、すごい。
「全然気づかなかった」
「でしょ」
綾香が苦笑する。
「自分でもびっくりしてるし」
「へぇ……」
改めて思う。
綾香が、誰かを好きになるって。
なんか、すごく新鮮。
「……で」
綾香が、少しだけ真面目な顔に戻る。
「どうしよって思って」
「……どうするって?」
聞き返す。
「いや、そのまんま」
少しだけ肩をすくめる。
「このまま何もしないか、動くか」
その言葉で、
さっきまでの空気が戻る。
真剣なやつ。
「……そっか」
うなずく。
「明日香はさ」
綾香がこっちを見る。
「どう思う?」
まっすぐな目。
ちゃんと、意見聞きたいって顔。
「……うーん」
少し考える。
恋愛のこと。
自分と、ちとのことも少し頭に浮かぶ。
でも、これは綾香の話。
「……綾香はどうしたいの?」
逆に聞く。
「……」
少しだけ間。
それから、
「……気になる」
って、小さく言った。
「話してみたいし、もっと知りたい」
その言葉が、すごく正直で。
「……じゃあ」
自然と、言葉が出る。
「動いた方がいいんじゃない?」
綾香が、少しだけ目を見開く。
「……やっぱそう?」
「うん」
うなずく。
「何もしないで終わるより、絶対いい」
自分でも、少しだけ強く言った気がする。
でも。
それは本音。
「……そっか」
綾香が、少しだけ笑う。
「なんか、明日香っぽい」
「え、なにそれ」
ちょっとむっとする。
「いや、いい意味で」
くすっと笑う。
「素直っていうか」
「……それ褒めてる?」
「褒めてる」
「ならいいけど」
ちょっとだけ笑う。
そのあと。
「……でもさ」
綾香が、少しだけ不安そうに言う。
「どう動けばいいのか分かんないんだよね」
「……あー」
それは、分かる。
「話しかけるとか?」
「それが一番難しい」
即答。
思わず笑いそうになる。
「いや、でもそこじゃない?」
「分かってるけどさー」
頭を抱える綾香。
その姿が、ちょっと新鮮で。
少しだけ可愛いと思ってしまう。
「……じゃあさ」
少し考えてから言う。
「まずは、普通に話すきっかけ作るとか?」
「きっかけ……?」
「うん」
うなずく。
「同じクラスなんだし、何かあるでしょ」
プリントとか、授業とか。
「……あー」
少し考える顔。
「確かに、それならいけるかも」
「でしょ?」
「いきなり距離詰めるんじゃなくて、ちょっとずつ」
そう言うと、
綾香は少しだけ納得した顔になった。
「……やってみる」
小さく、でもしっかり。
「お、いいじゃん」
「失敗したら笑ってね」
「笑わないよ」
即答する。
「ちゃんと応援する」
そう言うと、
綾香は少しだけ照れたみたいに笑った。
「……ありがと」
その笑顔が、
なんかすごく、嬉しかった。




