第十二話②
「……ちゃんと守る」
その言葉の余韻が、まだ胸に残ってる。
抱きしめられたまま、
しばらく動けなかった。
「……うん」
小さく返すと、
ちとは少しだけ力を緩めた。
ゆっくり離れる。
距離ができる。
さっきまでの近さが、少しだけ名残惜しい。
「……」
目が合う。
少しだけ気まずいような、
でも嫌じゃない沈黙。
――なんか、重いままなのも違う気がして。
「……ねえ」
先に口を開く。
「ん?」
「ずっとこの空気もさ、疲れない?」
ちょっとだけ笑いながら言う。
ちとは一瞬きょとんとして、
それから、少しだけ肩の力を抜いた。
「……まあな」
小さく笑う。
その表情が、少しだけいつものちとに戻る。
「せっかく会えたのにさ」
続ける。
「ずっと真面目な話だけって、もったいない」
「……それは、そうだな」
ちとが軽くうなずく。
ほんの少しだけ、
部屋の空気がやわらぐ。
「……じゃあ」
ベッドから立ち上がる。
「ゲームする?」
振り返って聞く。
ちとは、少しだけ目を細めて、
「……いいな」
って答えた。
その声が、さっきより軽い。
「でしょ?」
少しだけ嬉しくなる。
テレビをつけて、
ゲーム機の電源を入れる。
いつも通りの流れ。
コントローラーを渡す。
「はい」
「……ありがと」
指が少し触れる。
それだけで、少しドキッとする。
「……久しぶりかも、これ」
ちとがぽつりと言う。
「ね」
うなずく。
最近はずっとバタバタしてたから。
こうやって普通に過ごす時間、
ちょっとだけ久しぶり。
「負けないからね」
ちょっと強気に言う。
「……それはどうだろうな」
ちとが少しだけ笑う。
そのやり取りが、いつも通りで。
すごく安心する。
ゲームが始まる。
画面の中のキャラクターを動かしながら、
たまに笑って、
たまに悔しがって。
「ちょ、今のずるい!」
「いや普通だろ」
「普通じゃない!」
そんなやり取りをしてるうちに、
さっきまでの重たい空気は、
いつの間にか消えてた。
ただの、いつもの時間。
それが、すごく心地いい。
「……あー、負けた」
コントローラーを少しだけ投げるみたいに置く。
「弱いな」
ちとが、少しだけ得意げに言う。
「むかつく……」
じとっと見る。
ちとは少しだけ笑って、
「もう一回やるか」
って言った。
「やる!」
即答する。
そのまま、またゲーム。
笑って、
ふざけて、
距離も自然と近くなる。
気づいたら、
肩が触れてた。
「……」
ふと、動きが止まる。
視線が、ちとに向く。
ちとも、こっちを見てる。
ゲームの音だけが、少しだけ流れてる。
でも、もう頭に入ってこない。
「……明日香」
小さく名前を呼ばれる。
その声が、少しだけ低くて、
胸がドキッとする。
「……なに」
同じくらい小さい声で返す。
距離が、近い。
さっきより、ずっと。
ちとの手が、そっと私の頬に触れる。
びくっとするけど、
逃げない。
「……いい?」
その一言。
分かってるのに、
ちゃんと聞いてくれるのが、
ちとらしい。
「……うん」
小さくうなずく。
次の瞬間、
そっと唇が触れる。
やわらかい。
一瞬だけ。
でも、それだけで心臓が一気に跳ねる。
「……っ」
離れる。
でも、すぐにまた近づく。
今度は、少しだけ長く。
目を閉じる。
何も考えられなくなる。
ただ、ちとの温度だけが伝わってくる。
――離れる。
息が少しだけ乱れる。
「……」
言葉が出ない。
ちとも、何も言わない。
でも。
目が合う。
少しだけ照れたみたいに、
ちとが目を逸らす。
「……ゲーム、止まってる」
ぽつりと言う。
その言い方が、少しだけおかしくて。
「……ほんとだ」
思わず笑う。
さっきまでの緊張も、
不安も、
全部どこかにいったみたいに、
ただ、あったかい気持ちだけが残る。
「……続きやる?」
聞くと、
ちとは少しだけ笑って、
「……やるか」
って答えた。
その声が、すごく優しくて。
私はもう一度コントローラーを握る。
隣にいるちととの距離を感じながら、
またゲームを再開した。




