第十一話④
『……ルール、ちゃんと決めよう』
その言葉のあと、
電話の向こうで、少しだけ静かな時間が流れる。
「……うん」
小さく返す。
逃げたくない。
ちゃんと、向き合いたい。
『今日、少し考えた』
ちとの声は、落ち着いてるけど、
どこか張り詰めてる感じがする。
『会う場所は、今まで通り家だけにする』
「……うん」
それは、分かってた。
むしろ、それしかない。
『外では絶対に接触しない』
少し強めの言い方。
あの夜のことを思い出す。
胸が、少しだけ痛む。
「……分かった」
ちゃんと答える。
『あと、連絡も』
一瞬、間が空く。
『時間とタイミング、気をつける』
「……それって」
少しだけ不安になる。
『今までより、減るかもしれない』
「……っ」
胸がきゅっとなる。
分かってる。
必要なことだって。
でも。
「……そっか」
それしか言えなかった。
『……ごめん』
すぐに、そう言われる。
「謝らないで」
少しだけ強く言う。
「守るためなんでしょ?」
『……ああ』
短い返事。
そのあと。
『でも、ゼロにはしない』
その一言に、
少しだけ顔が上がる。
『ちゃんと話す時間は作る』
「……うん」
少しだけ、安心する。
『それで』
ちとの声が、少しだけ柔らかくなる。
『直接話したい』
「……え?」
『電話じゃなくて』
一拍。
『顔見て、ちゃんと決めたい』
その言葉に、
心臓が少しだけ早くなる。
「……うん」
自然と、うなずく。
『次の休み、空いてるか』
「……空いてる」
予定なんて、なかった。
というより、
今は外に出る気もあまりない。
『じゃあ』
少しだけ間があって、
『行く』
シンプルな一言。
でも、それだけで十分だった。
「……うん」
小さく返す。
『明日香の部屋でいいか』
その言葉に、
少しだけドキッとする。
「……うん」
もう何回も来てるのに、
改めて言われると、少しだけ意識してしまう。
『ちゃんと話そう』
静かな声。
でも、すごくまっすぐ。
「……うん」
同じように返す。
少しの沈黙。
さっきまでの重さとは違う、
少しだけ落ち着いた空気。
「……あのさ」
気づいたら、口が動いてた。
『ん?』
「今日、ありがとう」
「電話してくれて」
ちょっとだけ照れくさい。
でも、言いたかった。
『……いや』
少しだけ間があって、
『俺も、話したかった』
その言葉に、
胸がじんわりする。
「……そっか」
自然と、少しだけ笑う。
『……明日香』
名前を呼ばれる。
「なに?」
『今日、頑張ったな』
その一言で、
一気に胸が熱くなる。
「……っ」
言葉が出ない。
『ちゃんと学校行って』
『普通に過ごして』
『すごいと思う』
静かな声。
でも、すごく優しい。
「……そんなことない」
小さく言う。
でも。
嬉しい。
すごく。
『いや、すごい』
少しだけ、柔らかく笑った気配。
それだけで、
なんだか安心する。
「……ありがと」
やっと言えた。
『ああ』
短い返事。
でも、温かい。
「……じゃあ」
少しだけ名残惜しいけど、
切り出す。
「また、休みの日に」
『ああ』
その声に、
少しだけ心臓が跳ねる。
「……待ってる」
小さく言う。
『ああ』
それで、通話が終わる。
耳からスマホを離す。
「……はぁ……」
大きく息を吐く。
空を見上げる。
少し暗くなり始めた空。
「……頑張ろ」
小さく呟く。
怖いことも、不安もある。
でも。
ちゃんと向き合うって決めたから。
次の休み。
ちとと、ちゃんと話す。
その約束を胸に、
私はまた、歩き出した。




