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トーノブユース  作者: ふなつさん


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第二話①

文化祭の話が本格的に出たのは、それから一週間くらい経ったころだった。

 放課後。

 私はいつものように三階の廊下を歩いていた。

 窓の外を見ると、春の空が少しだけ柔らかい色になっている。部活に向かう生徒の声が下から聞こえてきて、校舎の中は放課後らしい空気になっていた。

「明日香」

 隣で綾香が言う。

「今日、文化祭の話やるらしいよ」

「ほんと?」

「会長が言ってた」

 私は少しだけわくわくした。

 文化祭はまだ先だけど、高校のイベントの中でもかなり大きいらしい。中学の文化祭も楽しかったけれど、高校は規模が全然違うと聞く。

 出店もあるし、ステージイベントもあるし、外部のお客さんも来るらしい。

「楽しみだね」

 私が言うと、綾香は少し笑った。

「明日香、こういうの好きだよね」

「うん」

「私は出店のほうが気になる」

「食べ物?」

「食べ物」

 綾香は即答した。

 私たちはそのまま三階の廊下の奥まで歩く。生徒会室のドアは、すでに少し開いていた。

 中から声が聞こえる。

「お、来た」

 二年生の先輩が手を上げる。

「お疲れ様です」

「お疲れー」

 私と綾香は挨拶をして席に座った。

 机の上には資料がいくつも並んでいる。いつもの光景だけど、今日は一番上の紙のタイトルが違った。

 大きく書かれている。

 文化祭企画会議

 私はその文字を見て、少しだけ背筋を伸ばした。

「じゃあ始めようか」

 会長の先輩が言う。

 部屋の空気が少しだけ引き締まる。

「文化祭は、うちの学校でも一番大きいイベントだ」

 先輩はそう言って資料をめくる。

「だから生徒会の役割も結構大きい」

 私はノートを開いてペンを持った。

「まず確認だけど」

 先輩が続ける。

「基本的な構成は毎年ほぼ同じだ」

 紙を指でなぞりながら説明が始まる。

 クラスごとの出店。

 体育館のステージ企画。

 部活動の発表。

 校庭イベント。

 色々な項目が並んでいる。

 私はそれを聞きながらメモを取っていく。

「ただ」

 会長の先輩が言った。

「一つだけ、毎年変える部分がある」

 部屋の空気が少しだけ静かになる。

「目玉イベントだ」

 その言葉に、何人かがうなずいた。

 文化祭の中でも、一番人が集まる企画。

 去年はお笑い芸人を呼んだらしい。

 その前は有名なダンスチーム。

「今年はまだ決まってない」

 先輩はそう言う。

「だから、ここからみんなで考える」

 私はペンを持ったまま少し考える。

 目玉イベント。

 どんなものがあるんだろう。

「なんか案ある人」

 先輩が言う。

 少し沈黙が流れる。

 こういうとき、すぐに意見が出るわけじゃない。

「クイズ大会とか?」

 誰かが言う。

「うーん」

「去年のダンスチーム結構良かったですよね」

「確かに」

 そんな感じで、色々な案が出始めた。

 でも、どれも決定的な感じではない。

 私は話を聞きながら、ノートの端に小さく丸を描いていた。

 そのときだった。

 二年生の先輩が、ふと思いついたように言った。

「さ」

 みんなが顔を上げる。

「文化祭ってさ」

「うん」

「バンドとか呼んだら盛り上がりそうじゃない?」

「ライブ?」

 別の先輩が言う。

「そうそう」

 部屋の空気が少し変わる。

 私は思わず顔を上げた。

 バンド。

 ライブ。

 その言葉を聞くと、どうしても思い浮かぶものがある。

「確かに面白そう」

「でも呼べるの?」

「予算どうなんだろ」

 そんな声が続く。

 そのとき、別の先輩が笑いながら言った。

「じゃあさ」

 少しだけ間を置く。

「メモリア・コードとか」

 一瞬、頭の中が真っ白になった。

 メモリア・コード。

 その名前を聞いた瞬間、胸がどくんと鳴る。

「いやいや」

 すぐに笑い声が上がる。

「無理無理」

「さすがに」

「来るわけないだろ」

 みんな半分冗談みたいな顔で笑っている。

 でも私は、思わずペンを持つ手を止めてしまった。

 メモリア・コード。

 サウズの声。

 イヤホンから流れるギター。

 もし本当に、そんなことがあったら。

「まあ」

 会長の先輩が笑った。

「夢としてはすごいけどな」

「ですよね」

「ダメ元でオファー送るとか?」

「送るだけならタダだし」

 また笑いが起きる。

 冗談みたいな空気だった。

 ただの思いつき。

 ただの雑談。

 でもそのときの私は、少しだけ胸がざわついていた。

 もし。

 もし本当に。

 そんなこと、あるわけないのに。

 私はノートの上にペンを置いたまま、少しだけ考えてしまう。

 このときはまだ、誰も本気で思っていなかった。

 この話が。

 本当に動き出すことになるなんて。

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