第十一話①
次の日の朝。
目が覚めた瞬間、昨日のことが一気に頭に戻ってきた。
「……あ……」
天井を見つめたまま、動けない。
夢じゃない。
ちゃんと現実。
週刊誌。
記者会見。
家に来たちと。
お父さんとお母さん。
全部、ちゃんと起きたこと。
「……はぁ……」
小さく息を吐く。
少しだけ、重たい体を起こす。
スマホを見る。
通知は、相変わらず多い。
でも、昨日よりは少し落ち着いてる気がする。
……気がするだけかもしれないけど。
画面を開くの、ちょっと怖い。
でも。
逃げたくない。
ゆっくり、ロックを解除する。
SNSを開く。
トレンド。
まだ、ある。
《サウズ》
《メモリコ》
《熱愛》
でも。
昨日より、言葉が少し変わってた。
《記者会見》
《高校生カップル》
《配慮を求める声明》
「……」
スクロールする。
いろんな意見。
応援してる人。
批判してる人。
面白がってる人。
ぐちゃぐちゃ。
でも――
《ちゃんと説明してて好感》
《守ろうとしてるのが伝わる》
《そっとしてあげてほしい》
そういう言葉も、ちゃんとあった。
「……よかった……」
ぽつりと呟く。
全部が敵じゃない。
それだけで、少し救われる。
そのとき。
――ピロン。
メッセージ。
「……ちと」
反射的に開く。
《おはよう》
いつも通りの一言。
それだけで、少しだけ安心する。
《おはよう》
すぐに返す。
《体調大丈夫か》
《うん、大丈夫》
《そっちは?》
少し間が空く。
《ちょっと忙しい》
だよね、って思う。
会見のあとだし、
絶対いろいろあるはず。
《でも平気》
《ちゃんと落ち着いてきてる》
その一言で、
少しだけ肩の力が抜ける。
《よかった》
《学校は?》
「……あ」
その言葉で、現実に引き戻される。
学校。
今日から、普通にある。
「……どうしよう……」
小さく呟く。
行きたくない、って気持ちが一瞬よぎる。
でも。
行かなきゃ。
逃げたくない。
《行くよ》
そう打つ。
少しだけ、指が震える。
《……無理するな》
すぐに返ってくる。
《何かあったらすぐ言え》
その言葉が、すごく安心する。
《うん》
短く返す。
《終わったら連絡する》
《ああ》
それだけで、会話は終わる。
でも。
それで十分だった。
スマホを置く。
「……よし」
小さく呟いて、立ち上がる。
怖い。
正直、すごく怖い。
でも。
昨日、ちゃんと決めたから。
逃げないって。
ちとと、一緒にいるって。
洗面所に行く。
鏡の中の自分を見る。
少しだけ、顔が固い。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせる。
深呼吸。
一回。
もう一回。
「……行こう」
小さく言って、
私は部屋を出た。
――玄関。
靴を履く。
ドアノブに手をかける。
一瞬、止まる。
外に出たら、
何が待ってるか分からない。
でも――
「……いってきます」
声に出す。
後ろから、お母さんの声。
「いってらっしゃい」
その一言で、
少しだけ背中を押された気がした。
ドアを開ける。
冷たい空気。
冬の朝。
一歩、外に出る。
心臓が、どくんと鳴る。
それでも。
私は、そのまま歩き出した。




