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トーノブユース  作者: ふなつさん


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32/45

第九話③

ゲームが始まって、しばらく。

「ちょ、待って、今のなし!」

「なしじゃない」

「絶対ずるい」

「普通にやっただけ」

「うそだ」

 そんなやり取りをしながら、私はコントローラーを握る。

 隣には、ちと。

 さっきよりずっと近い距離。

 肩が、ほとんどずっと触れてる。

 最初はちょっと気になってたのに。

 今はもう、ほとんど気にならない。

 それよりも。

 ゲームに集中してるはずなのに、意識の一部がずっと隣にある。

「ほら、またミスった」

「今のは操作が悪い」

「言い訳」

「言い訳じゃない」

 ちとは少し笑いながら言う。

 その声が近くて、少しだけドキッとする。

 私は少しだけ体をずらす。

 でも、結局また元の距離に戻る。

 離れる理由がない。

 むしろ、この距離のほうが自然になってきてる。

「……ねぇ」

「うん?」

「近くない?」

「今さら?」

 ちとはあっさり言う。

 なんか悔しい。

「気にならないの?」

「気になるよ」

「え」

 思わずちとを見る。

 ちともこっちを見ていた。

 目が合う。

 一瞬、時間が止まる。

「でも」

 ちとはそのまま続ける。

「嫌じゃない」

 その言葉に、胸が少しだけ強く鳴る。

 私はすぐに視線をそらした。

「……私も」

 小さく言う。

 ゲームの画面を見るふりをしながら。

 でも、全然集中できてない。

「明日香、今それ絶対操作してないだろ」

「してる」

「してない」

「してるって」

 そんなやり取りをしながらも、さっきとは少し違う空気。

 軽いのに。

 どこか、落ち着かない。

 いい意味で。

 試合が終わる。

 結果は――

「負けた……」

「勝った」

 ちとが小さくガッツポーズをする。

「悔しい」

「集中してなかっただろ」

「してた」

「してない顔してた」

 図星すぎて、何も言えない。

 私はコントローラーを置いて、少しだけため息をつく。

「もう一回やる?」

「どうする?」

 ちともコントローラーを置く。

 そのまま、少しだけ沈黙。

 さっきまでのゲームの空気が、ゆっくり落ち着いていく。

 そして残るのは。

 やっぱり、この距離。

 私は少しだけ体を倒して、ベッドにもたれた。

 ちとはそのまま床に座ってる。

 でも、距離は近いまま。

「……なんかさ」

 私が言う。

「今日、変な感じ」

「どういう意味?」

「ずっとドキドキしてる」

 正直すぎる言葉。

 言ったあとで、少しだけ後悔する。

 でも、ちとは少しだけ驚いた顔をしてから、静かに言った。

「俺も」

 その一言で、全部どうでもよくなる。

 私は少しだけ笑った。

「そっか」

「うん」

 短い会話。

 でも、それで十分だった。

 私は少しだけ体を起こす。

 そして。

 なんとなく、ちとの肩に寄りかかった。

 一瞬、間がある。

 でも、ちとは何も言わない。

 そのまま、受け入れてくれる。

 その自然さが、すごく心地いい。

 私は少しだけ目を閉じる。

 静か。

 ゲームの音も止まって。

 外の音も遠くて。

 ここだけ、切り取られたみたい。

「……ねぇ」

「うん」

「こういうの、いいね」

「いいな」

 ちとの声が、すぐ近くで聞こえる。

 私は小さく頷いた。

 外ではできないこと。

 でも、ここならできること。

 その一つ一つが、ちゃんと形になっていく。

「次もさ」

「うん」

「こうやって過ごそう」

 ちとは少しだけ笑った。

「ああ」

 その答えに、迷いはなかった。

 私はそのまま、少しだけ体重を預ける。

 ちとも、少しだけ支える。

 言葉は少ないけど。

 ちゃんと伝わってる。

 私たちは今。

 ちゃんと、恋人みたいに過ごしてる。

 誰にも知られずに。

 でも、確かに――ここにある関係として。

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