第五話①
文化祭当日。
朝、学校の正門をくぐった瞬間——
「おはようございまーす!」
元気な声が飛んできた。
振り向くと、クラスメイトが腕章をつけて立っている。
「明日香おはよ!」
「おはよ」
校内はもう、いつもの学校じゃなかった。
廊下にはポスター。
入口には看板。
色んな教室から音楽や声が聞こえてくる。
文化祭の朝って、なんでこんなに空気が違うんだろう。
少しだけわくわくする。
でも今日は——
それだけじゃない。
私は靴を履き替えながら思う。
メモリア・コード。
ライブは明日だけど、やっぱり意識してしまう。
「明日香!」
後ろから声。
振り向くと綾香が走ってきた。
「おはよ」
「おはよ」
綾香は私の隣に並ぶ。
「文化祭だね」
「だね」
「うちのクラス忙しくなりそう」
「お化け屋敷だもんね」
私たちのクラスの出し物は、お化け屋敷。
昨日作った「恐怖の廃病院」。
たぶん結構人気出ると思う。
「明日香」
「うん?」
「生徒会の仕事いつから?」
「もうちょっとしたら」
私は時計を見る。
午前中はクラスの手伝い。
昼前から生徒会。
そんな予定だ。
「じゃあその前に」
綾香が言う。
「ちょっと教室行こう」
「うん」
私たちは階段を上がった。
教室の前まで来ると、すでに人が集まっている。
「おー明日香!」
「綾香!」
「来た!」
クラスメイトたちが手を振る。
教室の入口には看板。
恐怖の廃病院
昨日見たときより、ちゃんと店っぽくなっている。
「どう?」
綾香が聞く。
「いい感じじゃない?」
私は教室の中をのぞく。
段ボールの通路。
黒いカーテン。
暗くしてある室内。
赤いペンキの手形。
「普通に怖そう」
「でしょ」
クラスメイトが笑う。
「明日香もやる?」
「何を?」
「脅かす役」
「いやそれは……」
私は苦笑した。
「途中で生徒会あるし」
「そっか」
綾香が言う。
「でもちょっとくらいならできるんじゃない?」
「それはそうだけど」
そのとき。
廊下のスピーカーから音が流れた。
校内放送。
『まもなく開会式を行います』
誰かが言う。
「文化祭始まる」
教室の空気が少し変わる。
みんな自然と廊下に出る。
体育館。
全校生徒が集まっていた。
ステージの上には先生たち。
生徒会のメンバーもいる。
私は後ろの方からそれを見る。
校長先生の話。
来賓の紹介。
そして——
『それでは』
『春野ヶ丘高校文化祭を、開会します』
体育館に拍手が広がった。
文化祭。
いよいよスタート。
教室に戻ると、もうお客さんが来ていた。
「いらっしゃいませー!」
クラスメイトが元気に声を出す。
お化け屋敷の前には、すでに列ができている。
「すご」
綾香が小さく言う。
「人気じゃん」
「だね」
そのとき。
「明日香」
綾香が言う。
「そろそろじゃない?」
「うん」
私は時計を見る。
生徒会の仕事。
そろそろ始まる時間。
「行く?」
「行こう」
私たちは教室を出た。
廊下はもう人でいっぱいだった。
他のクラスの出し物。
展示。
食べ物。
文化祭って、学校がまるごとイベント会場になる。
生徒会室に向かいながら、綾香が言う。
「明日香」
「うん?」
「明日だね」
「うん」
メモリア・コードのライブ。
文化祭二日目。
私は少しだけ息を吐いた。
まだ今日がある。
でも。
明日は——
きっと、すごい日になる。




