第四話④
文化祭前日。
朝、教室のドアを開けた瞬間——
「明日香おはよ!」
「明日香!ちょっと手伝って!」
いきなり声が飛んできた。
「ちょ、ちょっと待って!」
私は笑いながらカバンを机に置く。
教室の中は完全に作業場になっていた。
机は後ろに寄せられて、段ボールと画用紙が床に広がっている。
窓際ではペンキを塗ってる人がいるし、黒板の前ではポスターを描いてる人もいる。
いつもの教室なのに、全然違う場所みたいだ。
「明日香」
後ろから声。
振り向くと、綾香が大きな紙を持って立っていた。
「これ持って」
「なにそれ」
「看板」
よく見ると、まだ文字が半分しか書かれていない。
私は紙の端を持つ。
「これ何の看板?」
「うちのクラスのやつ」
綾香がペンキの筆を持ちながら言う。
「お化け屋敷」
「そうだった」
私たちのクラスの出し物は、お化け屋敷。
昨日まで準備していたけど、まだ終わっていない。
「明日香もうちょっと上」
「ここ?」
「うんそこ」
綾香が筆で文字を書いていく。
黒い太い文字。
恐怖の廃病院
「タイトル強くない?」
「いいじゃん」
綾香が笑う。
「それくらいの方が客来るって」
周りでもクラスメイトたちがわいわい話している。
「ここ暗くしよう」
「段ボール足りない!」
「ガムテープどこ!?」
文化祭前日の教室って、本当に騒がしい。
でも嫌いじゃない。
「明日香」
綾香が言う。
「これ乾かすから持って」
「了解」
私たちは看板を窓際に運んだ。
そこに立てかける。
「よし」
綾香が満足そうにうなずいた。
私は教室を見回す。
黒い布で仕切られた通路。
段ボールの壁。
赤い絵の具で描かれた血の跡。
「結構それっぽくなってきたね」
「でしょ」
クラスメイトの紀穂が腕を組む。
「昨日の夜みんな頑張ってたし」
「私たちは生徒会だったけどね」
「知ってる」
私と綾香が笑うと、紀穂も笑ってそう答えた。
「二人とも忙しそうだった」
「まあね」
文化祭前だから、生徒会もバタバタだ。
ステージ設営。
整理券確認。
校内放送。
やることが多い。
そのとき。
クラスメイトの一人が言った。
「そういえばさ」
「うん?」
「メモリコってほんとに来るんだよね」
教室の空気が少し変わる。
やっぱりこの話題になる。
「来るよ」
私が答える。
「明日香、当日近くにいるの?」
「ステージ横」
「いいな!!」
別のクラスメイトが言った。
「サウズとか見れるじゃん!明日香の推し!」
「いや面つけてるから」
私は笑う。
「誰が誰か分かんないよ」
「確かに」
みんな少し残念そうに笑った。
綾香が言う。
「でも歌は聞けるでしょ」
「それはそう」
「それだけでもやばい」
クラスメイトたちがうなずく。
「メモリコのライブ文化祭で見れるとか普通ないし」
「まあ……うん」
私は苦笑する。
そのとき。
教室の後ろから声がした。
「おーい!」
「手伝ってくれ!」
段ボールを持った男子が叫ぶ。
「廊下から運ぶの手伝って!」
「行く!」
綾香がすぐ答えた。
「明日香も来て」
「了解」
私たちは教室を出て廊下に出る。
廊下も文化祭準備の真っ最中だった。
いろんなクラスが段ボールを運んだり、装飾を貼ったりしている。
文化祭前日。
学校中が、同じことで動いている感じ。
なんだか少しだけ特別な日だ。
段ボールを運びながら、綾香が言った。
「明日香」
「うん?」
「いよいよだね」
「うん」
文化祭。
そして。
メモリア・コードのライブ。
その日が、もうすぐそこまで来ていた。




