第四話③
文化祭まで、あと五日。
十月三週目の月曜日。
放課後の生徒会室は、いつもより少し静かだった。
普段なら、資料の確認とか会議とかでみんな集まっているけど——
今日は少し違う。
メモリア・コードのマネージャーが学校に来ている。
そして今。
その人は——
応接室。
顧問の先生と会長と一緒に、そこで打ち合わせをしている。
生徒会の私たちは、生徒会室で待機。
いつも通り仕事をしながら、終わるのを待っている。
私は机の上の書類を見ながら言った。
「整理券の配布数、これで大丈夫かな」
綾香が隣からのぞき込む。
「三百?」
「うん」
「校庭のスペース的にはそんなもんじゃない?」
「だよね」
文化祭ライブの整理券。
配布はもう終わっているけど、最終的な人数の確認をしているところだ。
綾香がペンをくるくる回しながら言う。
「てかさ」
「うん?」
「今まさに応接室でメモリコの人と話してるんだよね」
「うん」
「なんか不思議」
私は少し笑った。
「確かに」
あのメモリア・コード。
顔も正体も知られていないバンド。
その関係者が、今この学校にいる。
しかも校舎の中に。
「明日香」
「うん?」
「ちょっと緊張してる?」
「してない……と思う」
「嘘っぽい」
「ちょっとだけしてる」
正直に言う。
綾香が笑った。
「ライブ当日もっとすごいよ」
「それはそう」
そのとき。
机の向こうで副会長が言った。
「坂城」
「はい」
「校内放送の原稿、もう一回確認しといてくれ」
「分かりました」
私はプリントを手に取る。
文化祭当日の放送。
ライブ開始の案内。
注意事項。
いろいろ書いてある。
読み返していると。
ふと、綾香が小さく言った。
「明日香」
「うん?」
「サウズも来るんだよね」
私は顔を上げた。
「そりゃね。何かトラブルでもない限り来るでしょ」
メモリア・コードのライブなんだから、そりゃね。
「やばいね」
「ほんとだよ…」
私が返事すると、綾香が少し笑う。
「明日香の推し」
「そうだけど」
ちょっと照れる。
私はプリントを見ながら言った。
「でもさ」
「うん?」
「面つけてるから誰が誰か分かんないんだよね」
「確かに」
綾香がうなずく。
「サウズの声でしか判断できない」
「だね」
私は少しだけ想像した。
校庭のステージ。
狐の面。
ギター。
そして——
あの歌声。
なんだかそれだけで、少しドキドキする。
そのとき。
廊下の方から足音が聞こえた。
生徒会室のドアが開く。
「坂城、近藤」
会長だった。
その後ろに顧問の先生もいる。
「終わりました?」
綾香が聞く。
会長はうなずいた。
「ああ」
先生が言う。
「打ち合わせは問題なく終わった」
私は思わず少し身を乗り出した。
「どうでしたか」
会長が机に資料を置く。
「基本的には、今まで決めてた内容で問題ない」
副会長が聞く。
「変更点は?」
会長は少しだけ紙を見てから言った。
「いくつか確認事項がある」
「あとで全員に説明する」
先生も言う。
「大きな変更はない」
「予定通り進めて大丈夫だ」
生徒会室の空気が少しだけ落ち着いた。
会長が言う。
「とりあえず」
「文化祭まで、あと五日」
私は資料を見ながら思う。
本当に、もうすぐだ。
文化祭。
そして。
メモリア・コードのライブ。




