第四話②
十月の二週目。
文化祭まで、あと一週間。
学校の空気は完全に文化祭モードだった。
廊下にはポスター。
教室には段ボール。
放課後になると、いろんな教室から作業の音が聞こえてくる。
ペンキの匂いとか、ガムテープを切る音とか。
なんというか——
文化祭前って感じ。
「明日香ー!」
廊下の向こうから声が飛んできた。
振り向くと、綾香が手を振っている。
「今行く!」
私は小走りで近づいた。
「どうしたの?」
「生徒会室」
綾香が言う。
「会長が呼んでる」
「なんかあった?」
「さあ?」
でも綾香はちょっと楽しそうだった。
「たぶんメモリコ関係」
「ほんと?」
それを聞いて、私は少しだけ胸が高鳴った。
文化祭。
そして——
メモリア・コードのライブ。
あのマネージャーとの打ち合わせがあってから、準備は一気に具体的になった。
ライブ会場は校庭。
ステージは特設。
観客整理のために整理券を配布。
外部の人も入れるけど、人数制限あり。
警備もつく。
文化祭のイベントとしては、かなり大きい。
私と綾香はライブ進行担当だから、最近はずっとその仕事だ。
「明日香」
「うん?」
「緊張してる?」
「ちょっとだけ」
私は正直に言った。
綾香が笑う。
「大丈夫だって」
「そうかな」
「そうだよ」
そう言いながら、生徒会室のドアを開けた。
「失礼します」
「坂城、近藤」
会長が顔を上げる。
「来たか」
「おつかれさまです」
私たちは席に座った。
机の上には資料が広がっている。
文化祭のタイムテーブル。
会場図。
そして——
ライブの進行表。
「最終確認だ」
会長が言う。
「文化祭まで一週間」
部屋の空気が少し引き締まる。
「まず整理券」
副会長が言う。
「配布は金曜の昼休み」
「各学年ごとに配布」
「坂城」
会長が私を見る。
「放送原稿、準備できてるか」
「できてます」
私はプリントを出した。
校内放送で流す告知。
整理券配布の説明。
注意事項。
全部まとめてある。
会長が軽く目を通す。
「問題ないな」
「ありがとうございます」
次に副会長が言う。
「当日の進行」
紙を机に広げた。
「メモリア・コードは午後三時入り」
「リハーサルはなし」
綾香が少し驚いた顔をする。
「リハなし?」
「うん」
副会長が言う。
「機材チェックだけ」
「本番一発ってこと?」
「そうなる」
さすがプロって感じだ。
「坂城、近藤」
会長が言う。
「二人はステージ横」
「進行サポート」
「分かりました」
「分かりました」
私と綾香は同時に答えた。
そのとき。
生徒会室のドアが開いた。
「失礼します」
入ってきたのは顧問の先生だった。
「先生」
会長が立ち上がる。
「ちょっと追加の連絡」
先生は言った。
「メモリア・コード側から」
私は思わず姿勢を正した。
先生は続ける。
「当日の動線について、もう一度確認したいそうだ」
「メンバーの正体は絶対に知られないように」
副会長がうなずく。
「了解です」
先生は言う。
「あと」
「メンバーは狐の面をつけたまま校内に入る」
綾香が小さく言う。
「徹底してるね」
「まあな」
メモリア・コードは正体不明のバンド。
それが人気の理由の一つでもある。
会長が資料を閉じた。
「よし」
「とにかく」
「あと一週間」
私たちは自然と顔を見合わせた。
文化祭。
そして——
メモリア・コードのライブ。
その日が、すぐそこまで来ていた。




