第四話①
七月。
学校はすっかりテストモードだった。
期末試験の一週間前になると、部活も委員会も基本的に停止になる。
もちろん——
生徒会も例外じゃない。
「はあ……」
私は机に突っ伏した。
教室の窓から入る風が、ノートのページをぱらぱらとめくる。
「明日香」
隣の席から綾香が言った。
「勉強してる?」
「してるよ……」
「ほんとに?」
「してるって」
私は顔を上げた。
机の上には英語の問題集が広がっている。
でも。
正直、頭の中は全然違うことでいっぱいだった。
文化祭。
そして。
メモリア・コード。
「明日香」
「うん?」
「メモリコのこと考えてるでしょ」
「……ちょっとだけ」
綾香が笑った。
「まだ三ヶ月あるよ」
「分かってるけどさ」
私はシャーペンをくるくる回す。
「でもさ、文化祭ライブとか考えるとさ」
「うん」
「なんか実感なくない?」
「それは分かる」
綾香もうなずいた。
「でも今はテスト」
「だよね……」
現実に引き戻される。
結局そのまま。
七月は——
テスト期間で終わった。
試験が終わると、学校の空気が一気に変わる。
今度は——
体育祭モード。
春野ヶ丘高校の体育祭は九月。
だから夏休みに入る前から、準備が少しずつ始まる。
そしてもちろん。
その中心にいるのは——
生徒会。
「坂城」
放課後、生徒会室。
会長がプリントを渡してきた。
「体育祭の競技案、確認してくれ」
「はい」
私はプリントを受け取る。
横から綾香がのぞき込んできた。
「どれどれ」
「綾香、近い」
「いいじゃん」
紙には競技の一覧が並んでいる。
リレー。
大縄跳び。
綱引き。
台風の目。
毎年恒例の種目ばかりだ。
「坂城」
会長が言う。
「放送進行の案も作っといてくれ」
「分かりました」
副会長も言う。
「あと応援合戦の順番決めもある」
綾香が笑う。
「忙しくなってきたね」
「そうだね」
私はうなずいた。
文化祭の準備も少しずつ進めながら、まずは体育祭。
そんな日が続いていった。
そして。
気づけば——
九月。
さらに気づけば。
九月半ば。
「明日香!」
校庭のテントの下で綾香が手を振った。
「こっち!」
「今行く!」
私は小走りでテントに入る。
今日は体育祭当日。
朝から校庭はすごい熱気だった。
応援団の声。
笛の音。
グラウンドを走る足音。
秋の空は青くて、まだ少し暑い。
「明日香」
綾香がプログラムを見ながら言う。
「次、二年の台風の目」
「了解」
生徒会は基本、運営側だ。
放送。
競技進行。
得点管理。
いろんな仕事がある。
「坂城」
放送係の先輩が言った。
「マイクチェック頼む」
「はい」
私は放送席に向かう。
マイクを持って言う。
「次の競技は、二年生による台風の目競争です——」
グラウンドから歓声が上がる。
体育祭は忙しいけど、楽しい。
そんな一日だった。
そして。
体育祭は無事に終わった。
片付けをして。
みんなで写真を撮って。
くたくたになって帰った。
それから。
九月の終わり。
十月に入るか入らないかくらいの頃。
放課後。
私はいつものように生徒会室に来ていた。
「失礼します」
ドアを開ける。
中にはもう何人か集まっていた。
「坂城」
会長が言う。
「来たか」
「おつかれさまです」
私は席に座った。
綾香も隣にいる。
「明日香」
「うん?」
「なんか今日、大事な話あるっぽい」
「え?」
私は首をかしげた。
そのとき。
顧問の先生が入ってきた。
「全員いるな」
先生はそう言って、机の上にノートパソコンを置いた。
「今、メールが届いた」
生徒会室の空気が少し変わる。
会長が聞く。
「どこからですか」
先生は答えた。
「メモリア・コードのマネージャー」
一瞬。
部屋が静かになった。
私は思わず姿勢を正す。
先生は画面を見ながら続けた。
「内容を簡単に言う」
「文化祭ライブについて、一度学校で打ち合わせをしたいそうだ」
綾香が小さく言う。
「打ち合わせ……」
先生はうなずく。
「マネージャーが学校に来る」
会長が聞いた。
「いつですか?」
「来週」
先生は続ける。
「その打ち合わせに」
「学校側の代表として」
少し間を置いて言った。
「顧問と生徒会長に出席してほしいとのことだ」
会長はすぐにうなずいた。
「分かりました」
先生はパソコンを閉じる。
「というわけで」
「文化祭ライブの準備も、ここから本格的に動く」
生徒会室の空気が少しだけ引き締まった。
文化祭まで、あと少し。
メモリア・コードのライブも——
少しずつ現実に近づいてきていた。




