第三話③
月曜日の放課後。
私は生徒会室のドアを開けた。
「失礼しまーす」
中にはすでに何人か集まっていた。
長机を囲んで座っているのは、生徒会メンバー。
そして。
「お、坂城来た」
綾香が手を振った。
「おつかれ」
「おつかれ」
私は綾香の隣の席に座る。
机の上にはすでに資料が並んでいた。
文化祭の企画書。
タイムスケジュール。
会場の図面。
そして——
一枚の紙。
そこには大きく書かれている。
文化祭スペシャルライブ
メモリア・コード
それを見るだけで、まだ少しドキドキする。
「よし」
生徒会長が手を叩いた。
「全員そろったな」
会議が始まる。
「今日の議題はもちろん」
会長が紙を軽く持ち上げる。
「メモリア・コード文化祭ライブ」
部屋の空気が少し引き締まった。
「正直」
会長が苦笑する。
「とんでもない企画になった」
みんな小さく笑った。
本当にその通りだと思う。
「学校の反応もすごいしな」
副会長が言う。
「朝からずっとその話」
「うちらのクラスもでした」
綾香が言った。
私はうなずく。
今日一日、どこへ行ってもその話だった。
廊下でも。
教室でも。
購買でも。
『ほんとに来るの?』
『アラン来る?』
『ライブ見れるの?』
そんな声ばかり。
アランっていうのは、メモリコのドラム。
その子は私の同志だったらしく、なかでもアラン推しらしかった。
「だからこそ」
会長が言う。
「絶対成功させる」
みんな真剣な顔でうなずいた。
「まず確認事項」
会長が資料をめくる。
「ライブ会場」
紙の図面を机の中央に広げた。
春野ヶ丘高校の校庭。
「ここ」
ステージ予定位置に丸がついている。
「校庭ステージで決定」
「体育館じゃないんですか?」
誰かが聞いた。
会長は首を振る。
「人が入りきらない」
「確かに」
メモリア・コードだ。
校内だけじゃなく、たぶん外部からも人が来る。
「問題はここ」
副会長が言う。
「観客数」
綾香が腕を組んだ。
「絶対多いよね」
「間違いなく」
「入場制限とか必要かも」
生徒会室に少し緊張が流れる。
私は資料を見ながら言った。
「整理券とか……?」
「それはあり」
副会長がうなずく。
「トラブル防止にもなる」
会長がメモを取る。
「整理券案、検討」
次のページ。
「次」
「機材」
副会長が言う。
「メモリコ側からリスト来てる」
「えっ」
私は少し身を乗り出した。
綾香も同じ。
「もう?」
「うん」
副会長が紙を見ながら言う。
「音響、照明、モニター、アンプ……」
ずらっと並ぶ機材名。
完全に本格的なライブ仕様だ。
「すご……」
思わずつぶやく。
綾香も言った。
「ガチのライブじゃん」
「そりゃそうだろ」
副会長が笑う。
「メモリコだぞ」
たしかに。
文化祭とはいえ、本物のバンド。
むしろ文化祭レベルじゃない。
「まあそうは言っても、この丸がついてるやつは全て向こうが持ち込むそうだ。スペースだけ作っておいてくれとのことだ。」
さすがプロだなあ…
「あと」
会長が資料をめくる。
「重要なこと」
部屋が静かになる。
「メモリア・コード側からの条件」
私は少し緊張した。
条件?
「一つ」
会長が言う。
「メンバーの正体は絶対に公開しないこと」
生徒会室に一瞬、沈黙が落ちた。
綾香が言う。
「まあ、そりゃそうか」
「だな」
メモリア・コードは正体不明のバンド。
ライブでも狐の面をつけている。
顔出しは一切なし。
「学校関係者にも秘密」
副会長が言う。
「裏導線も完全に分ける」
「なるほど」
つまり。
私たちも。
メンバーの素顔は見れない。
少しだけ残念だけど。
それがメモリコだ。
会長が言う。
「あと」
「当日の進行」
紙を机に置く。
「ここは坂城」
「え?」
私は顔を上げた。
会長が言う。
「ライブ担当」
「えっ」
「坂城、メモリコ好きだろ」
綾香が笑った。
「確かに」
「適任じゃん」
私は少し焦る。
「いやでも……」
「大丈夫」
綾香が肩を軽く叩いた。
「一緒にやるから」
「綾香も?」
「もちろん」
私は少し安心した。
綾香がいれば心強い。
会長が言う。
「じゃあ、ライブ進行担当は坂城・近藤で。よろしく」
私は姿勢を正した。
「はい!」
こうして。
文化祭の一番大きなイベント。
メモリア・コードライブ
その中心に。
私と綾香が関わることになった…




