第三話②
日曜日。
私は駅前の時計台の前で、スマホを見ながら立っていた。
ちなみに、メモリコが来ると公表した日の生徒からに質問メールの処理は本当に大変だった。
生徒会をやめようかと思うほどだ…
待ち合わせは十一時。
時間は——
十時四十分。
まだちょっと早い。
でも。
なんとなく落ち着かなくて、少し早めに来てしまった。
駅前は休日らしく人が多い。
買い物に来た人。
カップル。
家族連れ。
いろんな人が行き交っている。
私はスマホの画面を見ながら、小さく息を吐いた。
トーク画面。
相手は——
ちと。
小柴千都世。
私の彼氏。
中学二年生から付き合ってるから、もう二年くらいになる。
最近は学校を休むことが多いけど、こうやって時々会える。
今日もその日だった。
そのとき。
「明日香」
後ろから声がした。
振り向く。
「ちと」
千都世が立っていた。
黒いパーカーに、ジーンズ。
いつもの、少しラフな格好。
「ごめん、待った?」
「ううん」
私は首を振る。
「今来たところ」
ちとは少し笑った。
「それ絶対待ってたやつ」
「違うよ」
「ほんと?」
「ほんと」
でも。
たぶんちとは気づいてる。
私はいつも少し早く来る。
ちとが遅れたことなんてほとんどないのに。
「じゃあ行こ」
ちとが言う。
「うん」
私たちは駅前の通りを歩き出した。
今日の目的は特に決めていない。
ショッピングモールをぶらぶらしたり、カフェに入ったり。
いつものデート。
でも。
それが一番楽しい。
「最近どう?」
ちとが聞いた。
「学校」
「あー」
私は少し笑う。
「めっちゃ忙しい」
「生徒会?」
「うん」
文化祭準備が本格的に始まって、毎日バタバタしている。
綾香と一緒に、放課後はほとんど生徒会室だ。
ちとがうなずく。
「文化祭の時期か」
「そう」
私はそこで思い出した。
「あ、そうだ」
「うん?」
「ちとに言ってなかった」
「なに」
私は少し身を乗り出す。
「びっくりするよ」
「なにそれ」
ちとは少し笑った。
私は言った。
「うちの文化祭ね」
「うん」
「メモリコ来ることになった」
一瞬。
ちとが少しだけ止まった気がした。
ほんの一瞬。
でも。
次の瞬間には普通の顔に戻る。
「……へぇ」
ちとが言った。
「メモリア・コード?」
「そう!」
私は思わず声が大きくなる。
「すごくない!?」
「すごいね」
「生徒会でオファー送ったらOK来て!」
「へぇ」
「文化祭でライブやるんだよ!」
私は完全にテンションが上がっていた。
「やばくない!?」
ちとは少し笑った。
「明日香、めっちゃ嬉しそう」
「そりゃ嬉しいよ!」
私は言う。
「だってメモリコだよ!?」
「うん」
「しかも学校でライブとか!」
「確かに」
ちとは静かにうなずいた。
そして、私をからかうみたいに、目を細めた。
「文化祭って……」
ちとが言う。
「いつだっけ」
「十月の三週目」
「へぇ」
ちとは小さくうなずく。
「土日?」
「うん」
「ふーん」
その言い方が、ほんの少しだけ不思議だった。
なんていうか。
やっぱりどこか面白がってる感じ。
でも、私は特に気にしなかった。
「ちとも来てよ!」
私は言った。
「文化祭」
「いいの?」
「いいよ!」
むしろ来てほしい。
「ライブも見れるし!」
ちとは少し笑った。
「明日香の推し誰だっけ」
「サウズ!」
私はちよっと叫びそうになる。
「歌めっちゃいいんだよ」
「そうなんだ」
「ギターもすごいし」
「へぇ」
ちとは静かに聞いている。
「歌詞も青春って感じで!」
「明日香好きそう」
「好き!」
私は即答した。
そのとき。
ちとが少し笑った。
「……まあそりゃね」
小さく、そんなことをつぶやく。
「え?」
「いや」
ちとは首を振った。
「なんでもない」
私は少し不思議に思ったけど、深くは聞かなかった。
ショッピングモールの入口が見えてきた。
「お腹空いた?」
ちとが聞く。
「ちょっと」
「じゃあ先にご飯行く?」
「うん」
私たちはフードコートに入った。
席を取って、ハンバーガーを買って。
向かい合って座る。
ちとはポテトをつまみながら言った。
「メモリコのライブか」
「うん」
「いい文化祭になりそうだね」
「でしょ?」
私は笑う。
「絶対すごいよ」
ちとは少しだけ笑って、うなずいた。
「……そうだね」
私はポテトを一つ食べながら言った。
「文化祭、楽しみにしててね」
ちとは小さく笑った。
「うん」
「楽しみにしてる」
そのときの私は、まだ知らない。
この文化祭が。
私の高校生活を。
そして。
ちとのことを。
大きく変えることになるなんて。




